じん

DAU. 退行のじんのレビュー・感想・評価

DAU. 退行(2020年製作の映画)
4.2
すごすぎた。369分の威力、半端ではない。
もう少し歴史的、社会学的知識がないと正当に評価できないだろう。

前作『DAU.ナターシャ』は今作に比べると見やすかった(それでも2時間半だったけど)。
特定の人物の心理現象にメインフォーカスを宛てていたので、ソ連全体主義は彼らにとっての第三のファクターとして背景にあるだけだった。

一方今作『DAU.退行』は登場人物が多い。全編を通してフル登場するキャラクターが多数。
キャラクター達のミニマムな事象を取り上げるだけに留まらず、それを繋ぎ合わせることで1968年のソ連の社会主義体制とその決定的欠陥を、説得力のある的確な流れに沿って描いている。
科学を押し進めるためのソ連全体主義がいかに科学的発展と対極にあったか、崩壊への道標が分かるようになっている。
この映画の主役はソ連全体主義そのものだ。

何も起きないような時間が5時間半くらい続き、普通つまらなかったら絶対寝てしまうところだが、社会主義国の学者の議論や哲学を語るシーンが意外と面白くて観れてしまう。
1968年のソ連といえばフルシチョフが失脚した数年後であり、スターリン批判は完全に一般思想となっているため、平和共存路線の国家が敷かれている。そのため若者も派手な服装やマッシュルームヘアなど、アメリカの文化をかなり気に入っている様子で興味深い。劇中の若者がアニマルズの“the house of the rising sun”のレコードをかけているから驚いた。
そうこう面白がって観ていたら、意外としっかりソ連全体主義の「退行」への流れが完成されている構成。この5時間半、ちゃんと流れがあったのね。

そして怒涛のクライマックス。
約5時間半に及ぶ鬱陶しいほど国家の圧迫感を見せつけられた後、この映画の強烈な批評的姿勢を浴びる。唖然せずにいられない。
じん

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