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辻占恋慕のimaponのレビュー・感想・評価

辻占恋慕(2020年製作の映画)
3.7
痛みを伴う青春の着地点。苦い。
前作「ウルフなシッシー」同様に大野大輔監督自ら演じる男(信太)の台詞回し、理屈、ワードがジワる。
ワードに関しては入場者に配布されたポストカードにもある通り、周囲の人物もバシバシ、キラーワード投げ込んでくるし、フライヤーには劇中、月見ゆべしの歌う主題歌の歌詞が載っている。
本作が歌詞や言葉に重きを置いている証。

信太が案外まっとうな部分があるからなのか、前作ほどモラハラ感は薄れ、その分よりダメな感が強まってるように感じる。

ドラマのクライマックス、カタルシスとなるのがマネージャー信太の延々と続く観客罵倒。それまでより語彙が貧困に感じるので冷静さを失っているということか。「バーカ、バーカ」は酷い。
オヤジ観客一人の反応で、一瞬、信太が怯むのはなかなか良い。観客罵倒は自らへも投げかけられ、また映画鑑賞者のこちら側まで巻き込まれていく。ここらがなんともな苦味となる。

物語の中にチョイチョイ入れてくる意表を突く展開の見せ方。時系列を飛ばす手法。
マネージャーになったんかい!
しかも恋人になってたんかい!(誕生日の提案シーンはなんとも素敵)
別れた元カノは相棒のギターと同棲してるんかい!
別れた理由の元カノとの認識違いも面白れえ。

ウザイ映像監督や音楽評論家の出現。
極め付きは、バルサミコ野郎のセカンドハウスでのゆべしとのセッション。

ゆべしが自分の吐瀉物で窒息しかけ病院待合。信太が今までのプロデュース方法を反省し、「ポテンヒットなら三振で上等」からの握手、グータッチが熱い。

暗いキャラの月見ゆべしだが、劇中ソングのクォリティもあり、映画鑑賞者にも見ているうちに売れて欲しいと思わせる。
それだけに、親友からの言葉で月見ゆべしの葛藤に信太とともに気づかされる。(たいそうな感情移入ぶりだな、おい)

ここで一つ。
とある方のtweetで、
親友のあの彼女に悪意があったら、という仮説。
・・・その視点には気付かなかった。
怖い怖い。
月見ゆべしの内面の変化がうまく描かれてないため唐突感を感じたと思ってたけれど・・・
その仮説なら成立するし、ライブ会場から帰る時の彼女のほくそ笑みも合点がいく。
100%そんなことは無いということにしておこう。

ここらが潮時、苦い青春はあまりにも痛い幕引きだったが
劇中製作された(信太が映像監督にクレーム入れた)MVからのエンディング。月見ゆべしの新曲「辻占恋慕」歌唱まで違って聴こえるので爽快な後味。
今泉力哉「退屈な日々にさようならを」でも同様な手法のエンディングがあったが、爽快感に限って言えばこちらの方が上かも。

月見ゆべしを演じた早織。オファーが来てから弾語りの練習をしたという事だが、実に見事に湯がいた山崎ハコ、SSWを演じた。
早織とともに楽曲提供と月見ゆべしの母親役、西山小雨にも関心を抱き調べてみたら月見ゆべしよりかなり明るいイメージだった。
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