ブラックユーモアホフマン

チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ーのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

3.9
21世紀だぞ。

世界中、歴史上の拷問の種類の豊富さを考えて恐ろしくなった。
自分は、愛は想像力、想像力は愛、だと思っていた。それも事実だろうが、しかし同時に人間は人間に対してどこまでも残酷になれる。どうしたら憎い相手を苦しめることができるか、どうしたらより痛いか、辛いか、嫌な気持ちになるか、そういうことを想像するのも本当に得意だ。
結局同じと言えば同じ。どうしたら人が嫌がるかが想像できたら、それをしないのかしてしまうのかの二択。天使にも悪魔にもなれる。そこを分けるのは何か。考えたい。

昨日「あさま山荘」を観ても思ったし、今まで何度も何度も同じ感想を書いてるけど、本当に人間の愚かさに呆れ果てる。そして自分自身もまた他ならぬ愚かな人間の一人であることに絶望する。こんなのもう嫌だよ。

ゲイではない人々の、たまたまゲイとして生まれてこなかっただけなのにも関わらず、自分こそが”普通”で正しいんだと思い込んでいる驕り、傲慢さが本当に腹立たしい。平気な顔してあんな酷いことができてしまうことが哀しい。あれが本当に母親から産まれた人間なのか。

暴力を振るわれる実際の映像はかなりショッキングなのでこれから見る人はちょっと注意して欲しい。自分は見ながら少し動悸がした。

『ミッドナイト・トラベラー』なんかを観ても思うけど、こうやって色んな事情で母国にいられなくなり、やむなく危険を犯して亡命する、したい人々が大勢いるのに、自分の暮らしているこの国は難民を全然受け入れないってのがまた情け無くて、申し訳なくて、嫌だ。これはまた昨日観た『マイスモールランド』と通ずる問題だけど。
どうすればいい?ちょっと本当に具体的に調べてみよう。自分にできることをしてみよう。本気でそう思わされる映画。

『マイスモールランド』を観てもそうは思わなかったっていうんじゃないんだけど、やっぱ事実、命を張っている本人っていうのは強いなぁ……。本作も映画として特別何か新しさや面白さが強くあったかと言えばそうでもないんだけど。それでも、強い。物凄く。

そういう意味では、ディープフェイクの技術を使っているのが新しくて面白かった。従来のモザイクとは違うので、匿名性を担保しながらも人間らしさがあまり損なわれない。

【一番好きなシーン】
ラプノフさんと恋人が海辺を歩くシーン。空は誰かのものじゃない。彼らが彼らのまま空を見ることが許されないなんてそんなことあるか。隠れたり怯えたりする必要なんてない、はずなのに。