まっつ

僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46のまっつのレビュー・感想・評価

2.9
「エントロピーの増大」を理解したいなら、この映画の平手友梨奈こそ格好の素材になるだろう。『TENET』ではなく。そういった皮肉を言うのも憚られるほど、人が壊れていく様を140分見せつけられる。こんなに「あの頃の彼女たちを返せ」と叫びたくなる作品もそうない。平手には正直、さしたるカリスマ性はない。そしてセンターという器にいつまでも耐えられるメンタルもない(そもそも1期生の中で彼女は最年少だ)。ただ残酷なまでに彼女は踊れたし、物語に入り込む力があった(欅坂46の冠番組『欅って、書けない?』の演技企画でも彼女はぶっちぎりのパフォーマンスを見せていましたね)たったそれだけの女性だったのに。
そして周りもだんだんと「平手のためのグループ」という意識を植え付けられていく。平手中心の構図を確立することで、各メンバーから「私が前に出る」という主体性が奪われていく。ここまでみんなが壊れたのは、こうした構図を直接作ったスタッフであり、私たちファンでもある。平手を戻る緑のペンライトが、私にはナイフに見えた。つらすぎる。
「彼女の代わりはいない」といった旨の言葉をこの映画では何度か耳にする。対象こそ違えど、日常生活でも似たフレーズはよく聞く。しかしそのなんと残酷なことか。この映画を観たあなたならきっとわかるはず。代わりがいる、交換可能な存在だからこそ救われることもあるのだと。
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