イトウモ

ドント・ルック・アップのイトウモのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.0
テレビバラエティのような演出をただ散りばめた映画と侮ることはできない。

ミンディ博士(ディカプリオ)と浮気相手エヴァンティー(ブランシェット)の情事が妻(メラニー・リンスキー)に発覚したとき、「妻が浮気相手に詰め寄る手順、もう飽きたからスキップしない?」と提案される。ここでスキップの提案がされているものこそ、映画なり小説なりが描き続けたものではないか。もう結果も過程もどんなものかわかっているし、面倒なだけだからスキップしない? たとえそれがいくら個人的で、個人にとっては初めて体験するような事柄だとしても、ということなのだ。

IT長者ピーターを演じるマーク・ライアンスは、『レディプレイヤー1』の配役をはじめとしたスピルバーグ映画での役柄を想起させる。ただ、『未知との遭遇』とはうってかわって誰も天文学を信じていない。まるでコロナ禍における科学者のぼやきごとのように、この映画ではあらゆる専門知、自然科学は「情報産業」に取って代わられたかのように戯画化されている。
ピーターは「ビジネスマン」と呼ばれて、「これは進化だ!」と激昂する。「心理」も「政治」も「生物学」も「物理学」もすべて情報という単位に一元化されるコペルニクス的転回を迎えて、それゆえに人類は滅亡するのだ。

クライマックスは、目に見えるものを見上げようとする「ルックアップ」派とスマホの画面に映るものだけを見下げようとする「ドントルックアップ」派の戦いに転じる。そこでこの映画は「ルックアップ」ではなく「ドントルックアップ」として滅びる人類の物語を選ぶ。

人生の一大事は面倒なのでスキップするけれど、ワイドショーとゴシップと人気取りとミームとポップカルチャーで暇潰しをするのにはいつも忙しい。
ミンディ博士とディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)がホワイトハウスに肩透かしを食らうところから、いや、研究員たちが目に見えない星の軌道を観察するところから、すでにこれは待ちぼうけの映画であることが決まっていた。