イトウモ

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命のイトウモのレビュー・感想・評価

4.2
とてもおもしろかったし、ベロッキオの一貫したテーマ性に感激した。

端的に言えば、
「ベビーシッターに勝手に洗礼されたせいでヴァチカンに攫われてカトリックにされたユダヤ人家族の子どもの話である」

教義を教え込むシーン、裁判シーン、バーバルな場面が多く、『シチリアーノ』同様に結構かったるいのだけれど、攫われた子どもが母親と面会して父親にはしなかったのに、母親に向かって「いつもシェーマを唱えています」と感情を爆発させるところ、感動した。

『ポケットの中の握り拳』から一貫してベロッキオのテーマは、父親的なもの、象徴的なものへの反抗で、社会よりも絶対に個人の生活を重んじる。それがどんなに正しくない行為でも自分が大事なという自由の精神なのだ。
家族の話でいくと親に反抗する子どもの話のようになってしまうが、
社会の話になった時に『シチリアーノ』のように、義理や人情というか、組織よりも自分の家族を重んじて司法取引してしまうギャングを描くように、
今回は宗教権力の横暴に唾を吐くために家族の絆を反抗精神のもとに描いてみせる。子が親に反抗する話が、家族が権力に反抗する話、特に、息子を取り戻すことに失敗する父親と、権力に牙を剥く母親、そして母親を代表する母語(ユダヤ教の祈り)という形でスケールアップすることに感動した。
これを踏まえて『愛の勝利を』『甘き人生』なんかは、マザコンだけでなく個人主義の物語として見ることができるだろう。

逆に、
権力に反抗する時、個人主義では弱くてもマザコンなら可能な戦略になるのだ


最後の兄弟の対面場面は作劇上必要なのはわかるけれど、あざといので蛇足っぽい。母親の臨終シーン、教皇の遺体襲撃シーンは狂気を感じて素晴らしかった。