ambiorix

ドント・ルック・アップのambiorixのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.5
ジャンル的にはSFコメディなんだけど、まったく笑えなかった。それがなぜかというと、作中で皮肉られる対象の射程範囲があまりにも広すぎ、かつ真に迫りすぎているからで、おそらくコロナウイルスを模したと思われるディビアスキー彗星の地球への接近を軸に、アクチュアルな問題をシニカルなトーンでバスバス斬っていく。
本編で俎上にのせられるのは、行きすぎた資本主義だったり情報社会だったりSDGsだったり科学・統計を軽視する態度だったり米中間の対立だったり…と挙げていけばきりがないが、強引にまとめるなら「目の前に間違いなく存在する真実から目を背けてしまうこと」、ここにこそもっとも痛烈な批判が向けられている。これが頭Qちゃんの本尊であるアメリカから出たというのが何よりも驚きで、アメリカ映画の懐の深さをあらためて思い知った。メリル・ストリープ演じる大統領とその息子はトランプそのものだし、人命よりも自社の利益を優先するスマホメーカーのCEOなんかも「世界を滅ぼすとしたらこういうヤツなのかなあ」と思わせるだけのリアリティがあった。逆に、こいつらのことを「類型的な悪者として描いてる!」とか「カリカチュアしすぎ!」と思えないのは、虚構より現実のほうがひどいからなんだろうな。
ちなみにSFっていうのは、もともと「現実に起きている問題を現実には起こりえないシチュエーションでもって描く」ことに長けたジャンルなわけで、そういう意味でいえば特に目新しいことをやっているわけではない。一見ふざけているようでいながら、その実まじめに真摯にジャンルのお約束を踏襲してみせた映画ともいえる。
地球の存亡をかけた大ミッションと、ミンディ博士ファミリーのささやかな食卓とをカットバックで見せる終盤のシーケンスは白眉。結局最後に行きつくところは人と人との触れ合いでしかなく、社会がいくら変わろうとも、地球が滅亡しようとも、コミュニケーションだけは放棄しちゃいかんのだという強烈なメッセージが、絶望のさなかにおけるかすかな救いになっていた。
冒頭で僕はまったく笑えなかった、と書いたのだけど、じゃあこの映画が面白くないかというと断じてそんなことはなく、娯楽作として抜群に面白かった。Netflixオリジナルの中でも歴代トップクラスに好きな作品です。
ambiorix

ambiorix