社会風刺の利いたブラックコメディと聞いて楽しみにしていたら、蓋を開けてみると、所々のおちゃらけによってマイルドにはなっていたが、それでもかなり笑えない内容になっていた………
この作品は前後半に分かれていて、前半の地球を破壊する規模の彗星を見つけてからメディア発表した辺りはまだ笑えた。地球滅亡なんて恐ろしい事は考えたくないし、何かの陰謀であって欲しいと思うのは一般市民かくありなんと言った感じである。
後半からは本当に酷い有り様(褒め)で、それまでは彗星を核攻撃して軌道を逸らそうという計画だったのが、世界規模で有力なテック社が彗星を構成するレアアースのために彗星を細かく爆破して地球に落とそうという計画を立ててしまったために前者の計画は中止、彼を非難した科学者は軒並み解雇となった。このテック社のCEO役のマーク・ライランスという人の演技がま〜〜〜凄い。表面上は全くそれらしいCEOなのだが、どこか胡散臭さというか、底無しの貪欲さを感じる演技をしてくれる。個人的には断トツで役にハマっていた。国内では彗星の存在の肯定派と否定派にわかれ、この否定派の標語がタイトルの「Don’t Look Up(見上げるな)」。途中まではどうして否定派の標語がタイトルなんだろうかと思っていたが、最後まで見ると成る程、とんでもなく酷いタイトルだなという感じ。
ちょうど物語の真ん中辺りに、「政治対立とか面倒で疲れちゃうし、俺の映画見てよ」と、彗星衝突に託けた映画の番宣をする監督が現れる。中立派を気取って問題を茶化し、エンタメとして消化する無自覚の冷笑主義であるが、恐らくは日本の、特にSNSには死ぬほどいると思うし、死ぬほど見てきたし、自分にも心当たりがある。この映画は彗星の衝突を扱ってはいるが、彗星は単なるマクガフィンで、環境問題でも貧困問題でもジェンダーでもLGBTでも、それこそ新型感染症ウィルスでも良い。重要なのは地球が終わるとかそういう話ではなく、マトモな話し合い無しに対立をしたり、対立を煽ったり、或いは一笑に付したり、そういったマヌケをこいている間にどちらが正しいとか関係無く取り返しのつかない事になってしまうということではないかと思う。