古田新太の怖さが前面的に宣伝されていますが、言わずもがなそれは要素のひとつでしかなく、本作は人間の感情の動きを描いた本当に素晴らしい映画です。
吉田恵輔監督は、私が日本で一番好きな、最も信頼おける映画監督です。
本作は情報公開時から期待度がかなり高かったのに、実際に見ても期待値を遥かに超える出来でした。
時間の経過と共に変わる環境と感情、それでも埋まらない「空白」。
ただ、絶望的なだけでなく、しっかりと光を見せてくれるラスト。
笑いも涙もしっかりと緩急つけて描かれており、物語を追うにつれ、登場人物同士の距離が近付いていくと共に、観客として彼らへの共感を禁じ得なくしていく、丁寧な脚本と情景描写が見事。
キャストも、本当に素晴らしい。
人選が良いのですよね。なんというか、穴が無い、というか。
古田新太が上手いのなんて百も承知だし、松坂桃李は華があるのにあのオーラの消し方は努力の賜物と思います。
さらに、片岡礼子、田畑智子、寺島しのぶ、趣里、等、脇を固める女優陣も、とにかく素晴らしい。
個人的には重要な役割を担った藤原季節も良かった。
吉田監督作品は、描写の丁寧さとダイレクトな共感力で、直接的に感情を揺さぶられるところが好きなのですが、本作は良い意味で俯瞰的で、第三者としての感情に訴えてくる作品でした。
「純喫茶磯辺」以降、全部観ていますが、本作が一番好きかもしれない。
良い点挙げたらキリがないし、悪い点が見当たらないです。
おすすめです。
