チーズマン

空白のチーズマンのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.5
本当にきっつい話ですし、色々考えて疲れるのでもう一回は観ないと思いますが、確実に観て良かったです。

単に、少女が万引きをしたっぽい、という話からここまで人間同士の関わりの難しさやジレンマを扱いながら最後にその先まで描くという脚本が見事でした。
しかもそれを吉田恵輔監督作品らしい映画的なスリリングさや美しさを活かしながら107分で描き切る力量もすごいです。
こんな重厚な印象を残す映画なのに107分しかないんですよ、吉田恵輔監督作品の中でもこれは一つ抜けたレベルの作品になったと思います。


全く感情移入できないような主人公の添田充を(古田新太)を通して、いかに同じ家族や関わる人間同士でも見てるものが違うか、そしてそれぞれ違う視界のまま組み立てられるコミュニケーション不全のどうしようもないジレンマと悪循環がこれでもかと描かれていてほんときつかったですね。
こういうことは多かれ少なかれ誰にでもあることですから。
ならば、お互いが歩みよればなんてことは誰もが百も承知なんだけど、これまた見えてる例えば視界が180度違ったりすると、そもそも歩み寄る対象が互いが視界に入ってないのでどうしようも無いという難しさがあるなと思います。

だからこそ、時間をかけて少しずつあっちを見たりこっちを見たりしていくうちに、けして相手と交わらなかった視界が重なる瞬間や、歩み寄った瞬間が訪れるのかもしれませんね。
そんな簡単に変われる人や理解できる人ばかりじゃないと思います。
なので、映画のラストでその瞬間が訪れた時は号泣するしかなかったですね。

他者と同じものを見るという事が実はどれだけ難しくて、どれだけ尊くて大事にしなければならない事か、その一点に集約されてるようなラストでした。
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