コウキ

空白のコウキのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.4
この空白をどのように埋めればいいのか。

女子中学生が悲惨な交通事故に巻き込まれたことをきっかけに、様々な人々の想いが交差する。
娘を突如失った添田は、娘を死に追いやった直人を執拗なまでに追い詰める。

暗く、重苦しいテーマに辛くてたまらなかった。特に事故シーンはリアリティがあって、明日から運転するのが怖くなった。

登場人物全員に共感できる点があって、もし自分だったらと自己投影しながら見入ってしまった。中でも草加部がすごく印象的で、1人突っ走っていても意味がないことを突きつけられた。誰かのためにした行動だとしても、それが相手の重荷になってしまうこともある。前向きな言葉で鼓舞しても、心に響かないこともある。自分を正義だと信じて行動しても、正解とは限らない。他者を巻き込み、引っ張ることの難しさを考えさせられた。

スターサンズ製作作品は、メディアの描き方が秀逸だと改めて実感。都合のいい切り抜きで、情報操作し、国民の興味を唆らせる。情報を得るためには、相手の気持ちも考えない。そうして荒らすだけ荒らした後は、知らんぷりで他所に移る。日々、コロナウイルスによる不安要素が報道されている現在だからこそ、メディアとの付き合い方は1人1人が考えなければならない問題。

添田の変化を通して、よく見ることの大切さが伝わる。身近にいる人ほど、知っているつもりで、実はよく知らない。私も家族と仲睦まじいわけではないため、より刺さった。よく見ることを意識して家を観察するだけでも、普段見えてこなかった部分が見えてくる。
意識化しなくても見えるようにするには、相手に興味を持つことしかない。相手は何を考えているのか、感じているのか。そんな思考の積み重ねに加えて、しっかり言葉にして伝えること。そのプロセスを通して、人と心が通じ合うのだと思う。感じたことは言葉にしないとわからない。だからこそ、日頃から言葉にして伝えようと思えた。
ラスト、直人は些細な言葉に救われた。人の温もりをたしかに実感できた瞬間だ。
コウキ

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