ShuheiTakahashi

空白のShuheiTakahashiのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.6
圧力映画。
そして人間映画。
人間の在り方、多面性、人は誰もが正しくなくて、間違っていない。

教師からの圧力、父親からの圧力、社会の圧力、マスコミ、情報の圧力、親切の押し売り、性的な圧力、善意の強要、正しさの暴力。
この世に完璧なんてものはない。
完璧な人なんていない。
自分の行為は正しい、人として当たり前の行為だ。
父親として、店員として、マスコミとして、コメンテーターとして、当たり前の行為だ。
当たり前が正しいわけではない。
当たり前こそ疑うべき。
信じることは思考の放棄だ。
なんでもかんでも疑えと言っているわけではなく、テレビやネットの情報を与えられたまま受け入れないで、自分の頭で考え、心に従って生きる。
社会の常識や空気、価値観に縛られて押し付けられて、圧し潰される。
その中で自分の中で答えがあっても、それが正しいわけではない。
自分の考えはこうだ、そしてあなたはどう考えているか、聞く耳を持とう。
そして相手の考えを否定せず、認識しよう。
肯定しなくていい。
ただ、認識しよう。
世の中捨てたもんじゃない。
誰か一人、自分と向き合ってくれる人がいるはずだ。

好きな役者さんたちばかりで、好きにはなれない人たちを演じる。
それでも憎めない人たち。
それは人間らしさが詰まっている。
どうしようもなく嫌いな部分と、好きな部分、たくさんの矛盾で僕らはできている。

僕は奥野瑛太さんが大好きで、あの少しのシーンで存在感を残す、実在感、背景まで感じ取れる奥野瑛太さんが大好きです。
寺島しのぶさんも凄かった。
一人だけ店長を下の名前呼び、セクハラのオンパレード。
正しさの強要、暴力。
必死に精一杯生きているのはわかる。
けれどそれを押し付けて、それが当たり前で正しいんだから、という姿勢は嫌だなと感じた。
〇〇してあげるという言葉が嫌いだ。
もっと若くて綺麗だったら良かったんでしょ、って言葉は、本当に自分のしていることが見えていない。
年や見た目で優劣を決めているのはあなただ。
脚本が素晴らしい!


正直、僕も絵を描いていて、美術部にも所属していた。
週どれくらい活動しているのかわからないが、美術部の活動だけで、あれだけの枚数描いていたら頑張っているなと感じた。
そして最後、イルカの絵がかぶるところ。
違う場所で、同じ景色を見ていたこと。
娘との繋がりを感じる部分としては良いのかもしれないが、観た感想としてはあそこまでいらなかった気もする。
あれがなくても、見る方は救われていた。

そしてこれは映画的に余計だけれど、トラックの運転手はどうなったのか気になる。
それだけ人物に実在感が在った。

最初に轢いた娘の母親とのシーンはとてつもなく苦しく、やるせなく、どこにもいけない感情でいっぱいだった。
絵を見せるシーンは良かった。
圧力から徐々に解放されていく。
解放されていくけれど、残るもの。
失って、空白の中に残るもの。
それと向き合って生きたい。
ShuheiTakahashi

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