ひどい話であるものの、ファンタジー要素はない。すべて現実で起こりうる内容である。
我々の日常には、善意と悪意が入り混じっている。しかし見分けることは簡単ではない。向けられた思惑の本質に気づくことができるのは、かなり後になってからだ。
下品きわまりない取材をするリポーターや、承認欲求の強いボランティアであっても、もしあの人たちが知り合いだとすれば、「仕事だから」「熱心なだけだから」と言うかもしれない。
物語を通して客観視することを許されているからこそ、行為そのものに目を向けることができるのである。
世の中には時間が解決してくれることもある。必ず解決できるとは限らないが、時間の存在が癒やせる傷もあるはずだ。
顔の見えない悪意は潮が引くように薄れていき、残るのはただ事実のみである。当事者たちが事実に向きあうまでには、空白の期間が必要なのだろう。
