通常版は映画館で観て圧倒されたけど、ディレクターズ・カットはさらに凄い。
2回観ると鏤められた伏線やメタファーにより気づいておもしろい。
例えば冒頭の、泣いているダニーをクリスチャンが慰めるシーンではダニー側には植物があり、クリスチャン側には本がある。
彼らの本質の違いや夏至祭でのダニーの運命を暗示しているよう。
その他にも絵画やルーン文字、さらには「オズの魔法使」など数多くありそうだが、やはり知識がないと難しい。
ただ、ストーリーの軸は理解しやすく斬新でドラマティックなもの。
恐ろしく美しいトライバリズムを描きながらも、クリスチャンと訣別するダニーの決断を主たるテーマとして据え置いている。
この構成と伏線の鏤め方はやっぱりすごい。
ディレクターズカット版で追加されたシーンのおかげで人物描写が丁寧になり、クリスチャンの性格がよりわかりやすくなっている。
抗不安剤を常用しているダニーの妄想というのはいささか飛躍している気もするが、ダニーの潜在的な願望を満たすかのごとくホルガが存在しているのは確か。
こんなに常軌を逸した恐怖のスリラーであるのに、完璧なまでのカタルシスを得られる。
アスター監督の敬愛するロイ・アンダーソン監督の影響も感じられる。
アンダーソンは大好きだけど、この映画からもカットの空間の隅々まで意志を感じる。