APlaceInTheSun

Swallow/スワロウのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
4.4

「郊外の美しい風景に囲まれた大邸宅。室内は、生活感の無い整然とした高給インテリア。一見すると何不自由ない優雅な暮らし。
だが実際は、高給取りの夫に養われていると共に精神的に支配され鬱屈した毎日を過ごしている妻」
という設定は、昨年公開「透明人間」でエリザベス・モスが演じた主人公の逃亡前の状況を連想した(あっちの方はさらに、残忍な肉体的暴力を伴っていたが…)

妻ハンターはビー玉を飲み込み、排便する事で自分がそれまで得た事のない充実感を得る。自分の体を自分で決定しコントロールする喜び。
異食症という病気らしいが、飲み込む異物はどんどん危険な物に挑戦し、エスカレートしていく。ビー玉、画鋲、ボビン、南京錠、安全ピン…
このエスカレートする様はセックス依存症、アルコール依存症、買物依存症…ストレスや抑圧から何かに依存する状況に置き換え可能だ。いずれもどんどん危険な、過激な方向に進む。

とは言え、矛盾しているようだが、ここに「異物症」を持って来た事が本作の最大の特徴で。
「異物症」の描写には、自傷行為の痛ましさ、性行為の艶めかしさ、自慰行為の後ろめたさ、出産する時の神々しささえ見出す事が出来る。
また排泄物から異物を取り出す様からは、"自分だけの宝物を探し出した時の子供"のような達成感も。

----以下ネタバレ有り----
妊娠し、夫とその家族から施設に軟禁されそうになったハンターは逃走する。

向かった先は、ある冴えない男の家。
この男こそが、かつて彼女の母親をレイプして逮捕された男で、実の父親に当たる。
ハンターはその事件を扱った新聞の切抜きを常に持ち歩いていたのだ。
異食症の原因でもあり、人格形成の根本でもある男。
ハンターは捕らわれ続けた過去に決別する意志を持って会いに来たのだ。男に
「過去を恥じているか?」
「あなたと私は同じか?」「違うならハッキリ言え!」

過去を精算したハンターは意を決して産婦人科で中絶する薬品を処方してもらう。
憑き物が晴れたような表情が印象的。
商業施設の公衆トイレ。排水貯まりには、血で染まった水。
(あの牢獄のような大邸宅で唯一異物を飲む事で自分を満たす事が出来た場所もトイレだった。)
最後に飲み込む事を決意した物は異物ではなく中絶薬。

ハンターは、固執し続けた過去との決別を行うだけでなく、自分を支配した夫の子を堕胎する事で、もう一つの決別を果たした。
それは、レイプ犯の子である自分を「出産する」という判断をした、母親からの決別とも言える。
ハンターは「出産する」じゃなく「中絶する」を自分の判断で決定したのだ!

ハンターが公衆トイレの個室から出て外の世界へ歩き出す。でも映画はそこで終わらない。
公衆トイレで用を足し、メイクし直して外の世界へ歩き出す女の人達を延々と長回しで写し続けた後にエンディングを迎える。
ハンターのみならず、世の女性達は皆それぞれの物語でそれぞれの敵と戦うために武装して歩き出す。そんな作り手のメッセージを受け取った。
APlaceInTheSun

APlaceInTheSun