MasaichiYaguchi

滑走路のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

滑走路(2020年製作の映画)
3.8
32歳で命を絶った夭逝の歌人・萩原慎一郎さんが唯一残した同名の歌集を基に桑村さや香さんの脚本で大庭功睦監督が映画化した本作は、厚生労働省の若手官僚・鷹野、30代後半の切り絵作家・翠、苛めを受けている中学2年の学級委員長という、年代や職業、環境が違う3人を通し、現代社会をもがきながら生きる人々の苦悩と希望を浮き彫りにしていく。
鷹野は厚生労働省の官僚として非正規雇用問題を取り組む中で、自分と同じ25歳で自死した青年に興味を抱いて調査を始める。
翠は子どもが欲しいと思いながらも、将来の不安と夫との関係に違和感を覚えて揺れている。
学級委員長は幼馴染みを苛めから助けたことにより逆に自身が標的にされ、苛めがエスカレートしているにも拘わらず、シングルマザーの母に心配掛けまいと問題を抱え込んでいる。
映画では3人のドラマを交互に展開させていくが、全く関係が無いと思われた3つのドラマが終盤に向かうに連れて一つの道に繋がっていく。
描かれた3つのドラマは夫々決して特殊なものではなく、今この時でも日本の何処かで似たような状況の人はいると思う。
特に新型コロナウイルスが再び猛威を奮い始め、社会における格差が拡大して分断が進んでいるこの頃は、人々が抱える不安や不満が増大し、パワハラ、セクハラ、モラハラ等の苛めが陰湿的に広がっているような気がする。
「歌集 滑走路」にある「きみのため 用意されたる 滑走路 きみは翼を 手にすればいい」という一節と同様に、この映画はそんな状況にある我々に寄り添い、明日への希望を垣間見せてくれる。