32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎の遺作で唯一の歌集をモチーフにしたオリジナルストーリー。
厚生労働省で働く若き官僚、
夫との関係に違和感を感じる
切り絵作家、幼馴染みを助けた
ことでいじめの標的になった
中学2年の学級委員長。
3人の話が交互に表され、
名前が解ることで、三人の人生が交差し、つながる構成が、見事。
撮り方や画面の風合いも各々の
パートにこだわりの違いが見られる。
いじめや非正規雇用のテーマを
盛り込みながらも“官僚”という
権力側の視点をも入れている
所に観る者の視野を広げてくれる。
社会の中で、もがき、苦しむ人々の辛い思いや切なさが、伝わってくる。
重いテーマでありながら、根底に流れるのは人への思いやりや
希望へとつながるひた向きさ。
シングルマザーの母に心配かけまいと、いじめを隠し、明るく振る舞う息子。
夫に心なき言葉を投げつけ
られながらも命と向き合う妻。
それらのシーンは、
涙がとまらなかった。
“命”の見せ方もとても良く、
最後は嬉し涙が出た。
心の傷は、時間が解決してはくれず、むしろ、その後の人生を狂わせることもある。
眉間に皺を寄せ苦悩する浅香航大が良かったし、坂井真紀の静かだが深い演技や台詞に大泣きしてしまった。
パンフには監督と脚本家の対談も掲載され、歌集から脚本にしていく、丁寧な過程が書かれている。
映画では、ラストにしか短歌は
表示されないが、短歌からの
描写が、あふれていて、再度、
歌集を読み返し、その心情を
味わってみた。