ユカリーヌ

滑走路のユカリーヌのレビュー・感想・評価

滑走路(2020年製作の映画)
4.6
32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎の遺作で唯一の歌集をモチーフにしたオリジナルストーリー。

厚生労働省で働く若き官僚、
夫との関係に違和感を感じる
切り絵作家、幼馴染みを助けた
ことでいじめの標的になった
中学2年の学級委員長。

3人の話が交互に表され、
名前が解ることで、三人の人生が交差し、つながる構成が、見事。

撮り方や画面の風合いも各々の
パートにこだわりの違いが見られる。

いじめや非正規雇用のテーマを
盛り込みながらも“官僚”という
権力側の視点をも入れている
所に観る者の視野を広げてくれる。

社会の中で、もがき、苦しむ人々の辛い思いや切なさが、伝わってくる。
重いテーマでありながら、根底に流れるのは人への思いやりや
希望へとつながるひた向きさ。

シングルマザーの母に心配かけまいと、いじめを隠し、明るく振る舞う息子。
夫に心なき言葉を投げつけ
られながらも命と向き合う妻。
それらのシーンは、
涙がとまらなかった。
“命”の見せ方もとても良く、
最後は嬉し涙が出た。

心の傷は、時間が解決してはくれず、むしろ、その後の人生を狂わせることもある。

眉間に皺を寄せ苦悩する浅香航大が良かったし、坂井真紀の静かだが深い演技や台詞に大泣きしてしまった。

パンフには監督と脚本家の対談も掲載され、歌集から脚本にしていく、丁寧な過程が書かれている。

映画では、ラストにしか短歌は
表示されないが、短歌からの
描写が、あふれていて、再度、
歌集を読み返し、その心情を
味わってみた。
ユカリーヌ

ユカリーヌ