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ウィロビー家の子どもたちのLCのレビュー・感想・評価

ウィロビー家の子どもたち(2020年製作の映画)
3.9
面白かった。

親に愛を与えられなかった子どもたちが家から親を追い出すものの、家族の再現に苦心しながら、困難の中で子どもなりに生き抜く物語。

アニメーションがとても好き。特に登場人物たちの髪の質感が、マフラーやセーターを思い出す程のもこもこ感で魅力的。
わたあめのような質感のヒゲなんかも出てきたりして、甘そう、口の中で溶けそう。

親を追い出せた(危険の伴う旅行へ行かせた)後、長男くんはそれまでに夢見ていた「家族とは」を彼なりに実践しようとする。立派な家主として、長女さんや双子さんにあれこれ指図してみたり、家族団欒を試みたり。
そこへ、親に子守りとして雇われた人が登場するのだが、長男くんは頑として受け入れようとしない。「家の中で子どもより立場が上となる者」に対する不信があったのかなと思う。折角親を追い出せたのに、また誰かに支配されるかもしれないと思えば、反抗的になるのは自然だろう。勿論、「自分の力で出来る」という意地や、彼の理想の中に存在しない異物に立ち向かえる強い自己像もあったろう。
そんな彼が、全身で子守りさんに抱きつく瞬間が訪れたりする。初めて甘えられる、頼る際に疑わなくて良い、そんな大人の存在を認識したからこその姿には、ホッとしたりする。

子守りさんや、他にも力を貸してくれる人がいたりもする中、子どもたちは「最後は自分たちで問題に対処しよう。これは自分たちの問題だ」と空へ飛び立つ。
そして、絶望に叩きつけられる。もう問題解決どころか、今ここで生き抜けるかどうかもわからない程の絶望に。
そんな状況で長女さんが歌ってくれるのだけれど、絶望の中で人の心を支えるもののひとつって、確かに歌だったりするなあとしみじみ聞き入る。
ひとり暗い部屋で、誰にも届かない気持ちや言葉をメロディにのせて紡いだことのある人って、実は多いのではなかろうか。
消灯後の病室で口ずさんでいたら、心霊現象と勘違いした看護師さんがおっかなびっくり私を見つけたこともあった。これは愉快な思い出。

抗っても妥協しても、脱することのできない見えない檻は確かにある。
それでも子どもたちはやりきったし、塞がれた道もあれば何とか切り開けた道もあった。
下を向いて抑圧された状況で生きるしかなかった幼い頃の自分の日々をチラッと思い出したりしながらも、それでも実際、私は今平穏な日々にいる。それは単に、幸運というものが私を気まぐれに拾ってくれただけではあるけれど。作中の彼らのように無謀な冒険もしたし。そうやって、抗って妥協して生きてきた。振り返ると、後悔ってない気がする。
そのせいだろうけど、子守りさんも、司令官も、子どもたちも、この先自分たちの物語を後悔することはないだろうと感じる。
幸運が拾ってくれる瞬間まで、彼らは考え続けたし、もがき続けたんだ。

それにしても雪景色に半袖の人がいると、やっぱり寒さを感じる。ヒックとドラゴンでもそうだったけど、あちらは寒い地域の人だからかな、すごい、と思えたが、今作の子どもたちは普通にガタガタ震えていたし、わかる、寒いよね… と毛布を引き寄せた。君たちのもこもこヘアーでどうにかして暖を取れたら最高、なんて思ったりしちゃったよ、ごめんね。
彼らの物語を軽妙に見せてくれた猫さんもかわいくてハートを射抜かれる。どこでも涼しい顔で生きていきそう感すごい。

そういえば、サメ映画には「カップルは食べられる」という法則があるらしいのだけど、法則通り彼らは食べられたのだろうか、今まで通り愛の魔法で生きながらえたのだろうか。生きながらえたとすると、サメ映画の法則を打ち破った例として記録されたりするのかな。いやこれサメ映画にカウントされないだろうけど。
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