面白かった。
色んな人の、様々な大晦日が描かれていく。
それらは、別々の場所に居たり、偶然ぶつかって絡まり合ったり、ただすれ違ったりしていく。
年明け前のお祭り騒ぎが嫌い、という者が、エレベーターに閉じ込められても「まー何も予定ないしな」と落ち着いている姿が面白い。女性と一緒に閉じ込められてる状況だけれど、トイレの心配はないんだなあ。1人だったら、飾り付けをひっぺがして詰め込んだゴミ袋を活用するんだろうけれども、名前も知らん人と一緒じゃ、やり辛いんじゃないか。
彼と閉じ込められてしまった者は、しっかり慌てていたけれど、寒がる様子がなくて、そこに安心してしまった。仕事前だもの、体調に影響ない方がいいに決まっておるだろうからね。乾燥もしてなかったかな、喉が大切なお仕事なわけだし。長時間滞在するエレベーターってどんなんだろう、潤ってるんやろか。わしは幸い、閉じ込められたことないからなあ。
感じの悪い人だと思ったろうけれど、ひとりで閉じ込められるより、気が紛れてラッキーだったかもしれないね。最悪な四角い状況の中でも、丸く楽しく過ごすことを模索していけるんや。
新年を目前に、ギリギリで今年の目標を達成していく者も、とても好き。
仕事なんて辞めたらあ、と出来たのは、彼女にとって破茶滅茶に上等なことであって、まだ他に幾つも残っている目標をひとりで達成していく力がないことは、きちんと自覚していたんだろう。
目の前の仕事だけを見てきたような自分のことを、「初めて目を見て話してくれたやんな、この1年ずっとここに出入りしとるけどさ」と気にかけてくれていた若人を頼る判断をしたのは、それだけでも、本当にお仕事出来そうだなあと感じたりする。
自分の出来ることと、出来ないことを誰に助けてもらうか、割と正確に考えられるんだろうかな。
若人さんは、目も合わさない相手に対するあたたかな関心を持ち続けただけあって、彼が必死で「電話でろや、な、パーティしよや」とメッセージを残す相手も、傷付いて閉じこもる者だった。
目の前に居ない誰かを気にかけると、目の前にいる誰かの気持ちに意識がいかなくなる。そういう姿もあったけれど、それでも、やっぱり若人くんはあたたかな心の持ち主だった。
応答しない友だちも大切だけれど、今一緒に時間を共有している相手のことも、大切だ。自分のあたたかな気持ちを受け取ってくれる人を、傷つけたままでいいわけない。そう考えられる者だった。
善意を受け取ってくれて、彼も嬉しかったんだろうね。友だちは、事情があって彼の善意を受け取りようがなかったとはいえ、これも巡り合わせと言えるのかもしれない。
他の者たちも、置き去りにしてしまっていた気持ちや過ちを、新年の迫り来るその日、その夜に、各々取り戻していく。
娘が家から脱走したり、車が故障したり、ひとりぽっちで後悔の中死にゆこうとしたり、ひとりぽっちだけれど寂しさに負けず愛を伝えたり、問題は容赦なく起こるものだけれど、それぞれに走り回ったり考え抜いたりして奮闘していたし、その奮闘が実る瞬間も、確かにあった。
案外、悪くない1年だったかも。頑張ってみれば、どこかで何かが実るもんなのかも。
この希望を持って、新年を迎えよう。今までのように問題は容赦なく起こるだろうけれど、さあ、どう生き抜いてやろうか。
良いお年を。