楽しかったけど、良くも悪くもテレビドラマの劇場版だとは思う。
良いところは、見知った登場人物の前提を知っている物語なので、余計な負荷もなく楽しめるところ。シロさんとケンジを取り巻く状況に劇的な変化はないけれど、少しずつ変わっていくこともあって、それは心地よいことばかりではないけれど、嫌なことでもない。
この劇場版で描かれるのは、ふたりとそれぞれの実家との関係がメイン。両家ともにそれなりに「まとも」な家庭で、ふたりとも恵まれている方なのじゃないのかな（あくまで想像だけど）と思う。
日本人はゲイに寛容という話もあるけれど、それは画面の中にいる珍獣として許容しているだけというのがリアルなところで、現実的にはそんなに受け容れられているとは思えない。同性婚だって認められていないし、街中でそれと判るゲイカップルがいれば無遠慮な目を向けられることもあると思う。
だから、この物語の世界は現実より優しい。
シロさんの母親の拒絶はあれども、それが元で縁を切るだの、大げんかになるだの、関係性が壊れるだのといった、いかにもありそうな嫌なことが起こらない。シリアスになることはあっても、深刻な事態にはあまりならない。
この優しさは『きのうなに食べた？』のとても良いところだと思う。そもそも、美味しい食事のシーンが大事な物語なので、過度なストレスという最低のスパイスはお呼びじゃないわけだ。
一方、悪いところは（この作品に限った話じゃないけど）大画面の必要性を感じなかったところ。テレビのスペシャル版として放映するのじゃダメだったのかな──というのは、テレビシリーズの劇場版には付きまとう疑問。
