タランティーノが絶賛していると聞き、見てみた。基本、劇場鑑賞をレビューの条件としているのだが、あまりによかったのでルール適用外でレビューするね。
オレゴンの山奥で孤独に暮らしていたロブ(ニコケイ)はある夜、相棒のトリュフ豚を誘拐される。ロブは若いクライアント・アミールを伴って、豚を取り戻しに向かうのだが…。
はいはい、ロブは元諜報員でめちゃくちゃ強い無双の男なんでしょ? そりゃタランティーノも絶賛するわな。ええ、ええ、そう思いましたとも。一応、舐めてた相手が実は…ってつくりなのはそう。でもいつものニコケイのB級アクションものとは違うのよ。
もっと静謐で重心の低い作品なの。しかもありきたりの感動ではなく、飲食業界の生臭い暗部を描きつつ、料理の持つあったかい力強さとそれを繰り出す料理人のあり方について投げかけてくるのだ。ニコケイのアカデミー賞俳優としての面目躍如。実に素晴らしい演技を見せてくれてる。
めちゃくちゃ強い元諜報員じゃないとわかったとこら辺から、あれ、このテーマって別の映画でも最近観たなあと感じ始めた。
つくる料理人も箱となるレストランも客も、メニューもレシピも何もかも嘘っぱち!ってテーマって、そう、「ザ・メニュー」と同じなのよ。あちらはちょっと悪趣味なホラーテイストのミステリーだったけど、このPIGは紛れもない純文学。
攫われたトリュフ豚を探すってミステリーはあるんだけど、テーマはもっと深いんだわ。
飲食業界に君臨する飲食業マフィアは、食材、人材、箱、流通、評判すべてを手中に収めてるんだけど、肝心な料理の真髄を理解してなかったんだな。そんな悪とロブがどう戦い、決着をつけるのか、皆目見当がつかなかった。いい作品なのに最後に変なまとめ方されるのは嫌だなあと思っていたが、杞憂だった。
実に見事で、静かで素晴らしいクライマックス。料理は体験であり、時間であり、記憶であるという凄みをこんなふうに見せられるとは。ニコラス・ケイジが淡々と演じるからその凄みがまた説得力あるんだわ。自信というか信念というか、料理の正しい在り方を知っている人を正しく演じてて、ああああと深い感動に包まれる。
アメコミとかポリコレにかまけて、おもしろい作品がつくれなくなったハリウッドの良心を見た。これが長編映画デビュー作とは末恐ろしい監督だ。マイケル・サルノスキ、恐るべし。