とうがらし

犬は歌わないのとうがらしのネタバレレビュー・内容・結末

犬は歌わない(2019年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

ひたすら野良犬を観察し、そこに宇宙で星になったライカ犬のエピソードを掛け合わせることによって、ライカ犬の霊が今もモスクワにさまよっていると表現するドキュメンタリー映画。
正直、強引な解釈なんだけど、なぜか最後まで観れてしまった。

人間のエゴへのアンチテーゼ。
でも、野良犬さんに許可も取らず勝手に撮って(取りようがないけど)、犬の動きにナレーションをつけて、勝手に意味を見出すという行為自体もエゴ。
そう、この映画自体がエゴ。と解釈できてしまう。
この矛盾に気づくとちょっと面白い。
逆に、メリハリの利いたハリウッド映画や、何も考えずに見れるタイプの作品が好みの方には苦痛になるかも?
観る人の洞察力、つまりは、明確化されていないものから何かを想起し、結びつけることができる、引き出しの多さと質が試される。

ロシアが製作国に絡んでないけど、ほぼロシア映画(笑)
そのエゴとエゴが衝突することでドキュメンタリーからタルコフスキーのようなファンタジーに昇華する。
猫のシーンは衝撃。
ネオレアリズモ的な体験をすることになる。
あれだけ執拗に骨までかみ砕いて、結局食べれずに捨てて、犬同士で喧嘩するというオチは、フィクションに出てくる動物ではありえない残酷な現実。
猫好きは見れないかもね…
なぜ衝動に駆られる犬が、カメラマンの方には敵意を向けて来ないんだろうというのが謎。
野良犬との何か信頼関係があるのだろうか…?

これで、映画として成り立っちゃうんだから驚き。
しかも、ロカルノ国際映画祭で特別賞を受賞してるし…。
岩合光昭さんの猫を追いかける某TV番組があるけど、あれとも違うテイスト。
現前の動物の視点ではなく、ライカ犬の亡霊という目に見えない視点だからユニーク。
評価は低めだが、ある意味で、映画の根本を覆している類を見ない作品かも。
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