あらんすみしー

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれからのあらんすみしーのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

成績優秀で宿題代行を請負いお金を稼ぐエリー。ひょんなことからポールがアスターに渡すラブレターの代筆をすることに。

美人でたくさんの人に囲まれていながら、ぽつーんという感覚を味わっているアスター。

彼女にとって「私の地獄」を語れる相手の存在は恋愛の相手というより、救いの手だったように思う。彼女の絵の筆触の意図を、そしてその孤独までを理解する人の存在がどれほど貴重なことか。

あなたの孤独を理解できる、と言う代わりに多くの言葉を紡ぐエリーが知的で美しかった。

だれかの言葉を引用したり代筆してもらったりしたとしても、最後には自分の言葉を持たなければいけない。ときには、行動も大胆に。

それぞれの地獄から一歩踏み出す勇気を、そっと後押ししてくれる優しい映画だった。そして理解者の存在がもたらす安らぎと多様な愛のあり方を描いた物語。これはラブストーリーではない、と前置きがあったように、誰かと共に歩む物語ではない。自分で歩きはじめる物語だった。

ポールの不器用で真摯でベタな感性、そして見守る、という愛に最後はだれしも涙する。あの電車のシーンはズルい、愛おしすぎて泣く。

ポールは能天気そうなポジションではあるが、彼は四男で、家族からの関心を得られていない。彼なりの地獄がそこにあった。彼のタコスを食べる最初の人たちはエリーとその父である。だからこそ、そのちょっとした擬似家族が愛おしい。

全体的に言葉自体が美しく知的な映画なんだけど、かといってお高くとまってるわけではなくユーモアも秀逸。

オープニングのタイトルやエンドロールのCastやCrewとかの見出しが半分になってる。映画タイトルがThe half of it なだけにグラフィカルな部分にも遊び心があって可愛らしい。

水辺のシーンで「音楽や映画、物語には必ず、山場がある」という台詞があった。これはこの映画自体のBest Partがココだよ、というダブルミーニングだったのかな。いつの間にか長袖のエリーの服をアスターが着ている。しっとりと雰囲気のある素敵なシーンだった。

教会でのビンタの後、エリーがアスターのバイト先に行くシーン、店の名前が「Turning Point」となっている。おもわずふふふと笑ってしまった。

「日の名残り」というアイテムの使われ方も素敵。廊下でのシーンで、エリーが読んでる本が日の名残りだと気付いたアスターは、のちにスマホで日の名残りを読み返している。良い。そしてアスターがポールとの初デートで話題にした本も日の名残り。最後、諸々がバレてエリーが謝ったとき、"心のどこかで気づいてた"と応えるアスターのセリフは日の名残りというアイテムを通して、より強く描かれていたのだと、改めてみえてくる。


アスターが真ん中で左右にピントが合ったポールとエリーが配置されているメインビジュアルの画像、アスターの顔がボヤけて見えないのが良い。外見で判断されることに慣れた彼女の孤独を払拭しているようで。

あー、ヤクルト飲みたい。
タコス食べたい。

🍍🦉🐛