キャッチ30

TITANE/チタンのキャッチ30のレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
3.8
 デヴィッド・クローネンバーグのオマージュかと思った。序盤の展開は『クラッシュ』を、その後は『ザ・フライ』を想起させる。監督のジュリア・デュクルノーもクローネンバーグの影響を受けている。だが、本作はさらに向こう側へと踏み込む。

 幼い頃の自動車事故により、頭にチタンプレートを埋め込まれたアレクシア。以来、自動車に対して異常な性癖を見せ、殺人衝動にも目覚め、男でも女でも犯行を繰り返す。殺人の証拠隠滅を図ると同時に、両親を殺害したアレクシアは逃亡し、失踪者の少年アドリアンに成りすます。その父親で消防士のヴァンサンは息子に対して異常な愛情を抱いていた。こうして、アレクシアとヴァンサンの奇妙な共同生活が始まった。

 アレクシアは自動車事故で怪我をし、手術を受ける。アドリアンになる為に鼻を折る。その後、機械との性行為を通じて妊娠し、陣痛と出産の痛みが彼女を襲う。ヴァンサンも屈強な男らしさを維持しようとステロイドの注射の痛みに耐える。「痛み」の連鎖だ。

 もう一つ、今作は通過儀礼映画だと思った。アレクシアは父親に敵意を抱き、自動車と殺人にしか快楽を感じられなかった。だが、ヴァンサンと出会ったことで本当の愛を知る。ヴァンサンもアレクシアに息子の幻想を抱いてきたが、やがてアレクシア自身を愛するようになる。まさに、究極の愛の物語だ。

 デュクルノー監督は歪な者同士の親子とも恋愛とも違った変わった愛の形を構築する。赤と紫に彩られた色彩設計やライトがついたマッスルカーと一体化するアガト・ルセルや屈強だが脆さを見せるヴァンサン・ランドンの肉体も眼を惹く。タイトルバックのイメージは心電図と思ったが、エコー写真にも見えた。機械と人間の間の存在が降誕する瞬間も見逃さないで貰いたい。