キャッチ30

異人たちのキャッチ30のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.7
 白昼夢を見ているような気にさせる映画だ。目が覚めている時、空想や想像が風景となって現れて放心状態になる感覚。

 脚本家のアダムはロンドンの寂れたタワーマンションに住んでいる。アダムは12歳の時に両親を亡くしてからひとりぼっちのままだ。在りし日の両親との思い出を脚本に書き起こそうとするが、一向に作業は進まない。ある日、幼少期に過ごした家を訪れるとそこには30年前に亡くなった筈の両親が当時のままの姿で住んでいた。懐かしいひとときに浸かる一方、アダムは同じマンションの6階に住む青年ハリーと親しくなる。

 亡き両親との再会はノスタルジックにはならない。懐かしさよりもお互いの価値観の違いが見えてくる。アダムはゲイでそれを理由に虐めに遭った過去があり、他者を愛することができず、生前の両親には言い出せないまま死に別れてしまった。アダムがカミングアウトした後、母は戸惑いを隠せず、父は泣いてるアダムに寄り添わなかったことを後悔する。ハリーも家族にゲイだとカミングアウトしたことにより、爪弾きになった過去がある。アダムとハリーは同じ痛みを共有していく。満ち足りた日々をおくるアダムだが、幸せは長くは続かなかった……。

 アンドリュー・ヘイ監督はミニマムな登場人物と空間だけで物語を紡ぐ。紫や青の照明やケタミンによるトランス状態は現実と幻想の境界を曖昧にしていく。両親とハリーはアダムが生み出した空想とも考えられる。