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TITANE/チタンのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.5

『junior』『RAW少女の目覚め』を通して観ると誰の目にもこの監督の作家性がはっきりと分かる。
女性が生きる上で感じる苦痛をグロテスクなまでに肉体的に痛々しい描写で表現する。上記2作は恐らく性の目覚めや生理をボディホラーと呼ばれる表現に担わしてしたように思う。

今作はその作家性はそのままに、その前2作品より一段も二段もレベルアップしているように感じた。
その1つ目の理由は映像表現。
露悪的なまでに痛々しい肉体描写に機械・金属的描写をとても上手く盛り込んでいる。
父親との関係に問題を抱えているのが原因なのか無関係なのか分からないが、本作の主人公アレクシア(アガト・ルセル)も女性(の身体)で産まれてきた事に強い違和感を抱いているように描かれている。そんな彼女が、妊娠という女性にしか体験し得ない試練(という言葉を敢えて使う)に直面し、苦悩する。意図的に流産するよう自傷行為に及びさえする。
その苦悩と違和感が《生体・肉体》と《機械・金属》の組み合わせの違和感と上手く呼応している。
痛み表現に磨きがかかっているとも言える。
さらに今作の凄まじいのは只々痛ましいだけでなく、妊娠→出産が終盤にかけては神々しさ、神秘的な奇跡を感じさせるからだ。

もう一つの理由は主題で、前述した通りの過去作から通底している作家性に加えて、語られている主題の射程が広くなっている点。
マッチョイズム全開な消防隊の隊長ヴァンサンという人物が登場するが、その彼がどう変化して行くのかに注目した。
ホモソーシャルな集団の代表みたいな消防隊を束ねる隊長である彼は、部下に威厳を示さねばならないし肉体的にも強度を保っていなければならない。
年を重ねて衰えていく肉体に鞭を打つかのように、夜中のっそりと起きて臀部にホルモン注射をぶっ刺す彼は、心穏やかには見えない。
さらに彼は、家を飛び出して帰ってこない息子がいる事が示される。主人公を息子だと自分に言い聞かせ喪失感を埋めようとしている。
アレクシアが風呂上がりで不意にヴァンサンに身体を見られるシーンが印象的だ。目の前のアドリアンだと名乗る者が女性だという事実を突きつけられるも、そっとバスタオルを体にかけ「誰であろうと、お前は俺の息子だ」。
これまでデュクルノー監督ガ作ってきた作品は女性が感じる痛みを表現する《女性の映画》だったのだが、このあたりから本作は性別を超え、喪失や苦痛を乗り越える何かを描きだす。
性別や年齢を超えた二人が生命の誕生に《向き合う》シーンは、苦痛の象徴だった妊娠期から反転して神々しい奇跡となる。
(実際の妊娠→出産の歓びを体現してもいる)
この点に於いてTITANEは普遍性を獲得しより広い観客に受け入れられる傑作になっている。
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