回想シーンでご飯3杯いける

ジョン・ウィック:コンセクエンスの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.7
1作目に付けたスコアは2.5だったのに、チャプターを追う毎に面白くなるというシリーズ物では非常に珍しい展開を見せる「ジョン・ウィック」。

相変わらずキアヌ・リーブスは棒読みなんだけど、スタッフ・サイドもそれを分かっているのか、無理して彼に台詞的な見せ場を作らない潔さ。今回は3時間弱の大作だったけど、彼の台詞は台本2ページ分ぐらいしか無かったように思う。

かといって、アクションだけの脳筋映画には決してなっていなくて、見せ方のバリエーションはどんどん増えているし、動きの端々にメッセージがある。今回出色だったのは、凱旋門でのカーチェイスや廃墟での格闘シーンで取り入れられた真上からの俯瞰視点。本来であれば設定画や絵コンテで描かれる舞台の全体像を、僕達観客がまるでスタッフの一員になったような気分で体感できる。そして、一連のシーンが(おそらく)長回しで撮られている事が把握できるので、没入感も半端なく上がる。

音周りの設計も、相変わらず凄くて、破壊音のインパクトは勿論、クライマックスでフランスのあのアーティストの曲が掛かった時に鳥肌が立ったよ。

台詞の演技が苦手な主人公を上手くサポートする脇役の豪華さも、今回は凄い。冒頭の大阪のシーンで登場する真田広之とリナ・サワヤマの身のこなしと、日本語と英語が混ざった掛け合い。それに合わせてキアヌも思わず日本語で話す。

そこに加わるのは主席連合からの刺客ドニー・イェン。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」同様、盲目の設定なのだが、あそこまで心の目が開いている感じではなく、しっかりと「見えていない」演技が入ってくるのがスリリングで溜まらない。ラーメンすすりからのピンポンダッシュ(違?)は笑っちゃうぐらい凄かった。

愛犬を殺された男の復讐劇から始まった物語も、友情、信頼、労り、そして変わらぬ犬への愛情と、ちゃんとアクションと所作を通じて描いていく。ボコボコ殴り合っているのに、何故か目頭が熱くなってしまうという、これまでの映画ではあり得ない体験をする、とても記憶に残る作品となった。

【2023/9/30追記】
キアヌ・リーブスがディスレクシア(読字障害)を持っているという記事を見付けた。恐らく本人はこの点について多くを語らないだろうが、俳優としての台詞量の少なさや、感情表現が薄い台詞回しの原因は、そこにあるのかもしれない。だとすると「ジョン・ウィック」シリーズは、彼が「マトリックス」時代からの仲間であるチャド・スタエルスキ監督と協力し、身体表現を中心にした作風を築きあげた、障害克服の記録としての存在意義を併せ持つ作品群と言えるのかも知れない。