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ザ・ファイブ・ブラッズのtsuraのレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.2
日本人はこの戦争についてあまりにも他人行儀な気がする。

私達が当事者だった第二次世界大戦に関する歴史の勉強は幾度するのに寧ろそれより凄惨で非道で世論を大きく動かしたこのベトナム戦争を何故今日本人は軽視してしまうのか。

第三者で有ればこれ程近くで起きた戦争でも対岸の火事で済ませてしまうのか。

歴史認識も含め私は今作を見てその無知さ加減に自分を戒めた。


スパイク・リーは前作「ブラック・クランズマン」で黒人への人種差別を白人至上主義の目線から徹底的に浮き彫りにしたが今作でも黒人が戦場で置かれている立場やその杜撰さを示しながらもより人間という動物の興味深い洞察とノスタルジーを上手く作中に溶かし込み、一つの戦争映画を多面的に、そして痛快に捉えた秀作だ。

隊長の亡骸と隠した金塊を探す旅に、人生も終盤に差し掛かった4人とそのうちの1人の息子と共にかつて戦場だった彼の地を彷徨う。
戦争と時間が蝕んだそれぞれの変容ぶりに次第に4人の心はかつての戦場の混乱のように疑心暗鬼の沼におちていく。

この作品は金塊探しのアドベンチャーと4人の人生の迷いと、現地人の苦悩や欲望がストーリーをこれでもかと言わんばかりに有象無象に錯綜した事で、ベトコン時代のストーリーに重きを置かなくても戦争の無価値が炙り出され、余計に戦争の凄惨を表面化している。
その意味に於いて言えば「フルメタルジャケット」の様な前後半の丸っ切り異なる展開のそれにも似た設定である。

更にそんな破茶滅茶なストーリーをより現実なんだと明確に思い起こさせる様々な実際の写真や映像がサブリミナル効果の様に脳に刺激を与え、作品の重みを付加させいる。
そして、ここに重量級という言葉ですら蹂躙してしまうくらいヘビーな怒涛の熱演が更に心を奪う。
個人的にはクラーク・ピーターズの陰を纏った演技や父の影に苦悩するジョナサン・メイジャーズの演技の深みには中々感服したが映画と現実に横たわる"怒り"全てを一身に纏い体現したデルロイ・リンドーの演技は素晴らし過ぎる。

もう圧巻の一言。

特に終盤は彼の独壇場。

ここを見ずしてこの映画語れず、だ。

というかここの熱演にこそ、映画が語るこの戦争の無慈悲さを如実にしている印象だった。


そして、ここに20世紀の名盤中の名盤マーヴィン・ゲイの「What’s going on 」をもうこれでもかと言う位に絡ませて当時の温度を代弁させてみせている。(このアルバムを神聖化している自分はもう感涙でしたよ…)

私達はまたしてもスパイク・リーの熱々のメッセージにしてやられたわけだ。

彼も迷走?した様な時期もあったけど、相変わらずこの解決しない問題に対する発したい"言葉"は尽きず寧ろ饒舌であった。

彼がその言葉の連射を止めるのはいつになるのだろうか。

しかし悲しいが、この作品を話題にしてしまったのは何も"Black lives matter"に沿っているからだけではない。

チャドウィック・ボーズマン。


彼の死だ。


話がやや偏ってしまうが、イングランド・プレミアリーグ FAカップ決勝でオーバメヤンがゴールを決めた時、ゴールパフォーマンスでチャドウィック・ボーズマンを黙祷するパフォーマンスをして見せた。

それだけでアーセナルファンとして誇らしかったし私は胸がいっぱいになった。

でもそれだけ彼の死はショッキングでもあったのだ。


「ブラックパンサー」のティ・チャラはもう本当に凄みというか王たる貫禄まであって思わず実在の王ではないかと錯覚する程のまさに威風堂々で。


今回も隊長の役なのだが、皆の模範となる役柄には何かしら彼なりのメッセージがいっぱいに含まれている様に思う。

貴方の姿をもうあと少しでしかスクリーンで拝めないと思うと人の儚さを想う。

人は何故失ってからその価値に気付くのだろうか。








話は随分と感傷的になってしまったが、
この作品のパワーを無視しないで。

ベトナム戦争。

この20世紀の汚点ともう一度向き合って。

そして。




rest in peace
tsura

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