たくみ

あのこは貴族のたくみのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.0
こういう映画が心に沁みる年齢になってしまったなぁ。
「結婚」という言葉がそう遠くないものになってきたからだと思います。
(周りがどんどん結婚していってる、そんな中自分はずっと映画観てる)

よくこの映画は東京の社会階層の格差を扱っていると言われているが、個人的には友情の方が色濃く描かれている映画という印象。
華子も美紀も社会や家柄に揉まれながら生きているけど、友達といる時だけは本来の自分でいれている。
美紀と里英が、内部生とお茶に行ったときの事をディスりまくってるのとか微笑ましかった。
好きなものよりも嫌いなものが共通している方が友達になりやすいんやなって感じた。
華子は逸子と、美紀は里英といる時だけは本当の自分に戻っていた。
2人とも最終的には、そんな友と過ごす時間(=友情)を選択した事、それが如何に美しい事なのかを伝えたかったのではないかと思うし、この選択は本当に素晴らしいなと感じた。

華子と美紀は家柄が全く違う事を直接的な言葉を使って表現するのではなく、ちょっとした所作や家族との時間の過ごし方などで表現しているのが上品だと感じた。
特にお店でスプーンを落としたシーン。
美紀はそのまま拾おうとするけど、華子は迷うことなく店員を呼んでいる。
お互い当たり前の事をしただけなのに社会的階層の違いが分かってしまう。
あと、正月の過ごし方も対比されていたと感じた。
華子は親戚も含めてお店で懐石料理を食べながら、美紀は家でおせち料理を食べて過ごしている。
タッパーのまま出している料理があるのとか、まさに庶民。
(我が家も絶対美紀の家みたいな過ごし方)
そういう細かい所を作りこんでいるからこそ2人の社会的立ち位置の違いが浮き彫りにされ、多くの人が格差みたいなものを感じたのかなと感じた。

そんな二人だけど、奇しくも同じ人、幸一郎に惹かれてしまう。
幸一郎を高良健吾さんが演じているのだが、前半の演技が特に良かった。
家柄が本当に良くてなのか、ナルシスト過ぎてキザな事を言っているのかがわからなくて、良い意味で違和感だらけやった。
華子にプロポーズするまでは超好青年。
別荘でのプロポーズのシーンなんかは上流階級の人間のやり取り過ぎて、ついていけなかった。
孫悟空とフリーザの空中戦を地上から見上げることしか出来ないヤムチャの気分でした。

ここまでは幸せそうなんですけど、ここから不穏な空気になっていく。
幸一郎に女の影があるし、仕事が忙しくなったり。
こういった上流階級の人間は自分の理想だけを追い求める事は出来ないんだなって。
自分の幸せを押し殺してでも、家柄を重んじる。
とんでもなく苦しい生き方だと感じた。

そういった事に二人も気づき始め距離が生まれてくる。
ベランダで話しているシーンで決定的になってしまっていたと感じた。
華子が「トマトを育ててみたい」と言ったのに対して、幸一郎は「買った方が早くない?」と言うシーンで如何に2人が相容れない関係性だったのかが表現されている気がして悲しくなった。
その後も「結婚してくれただけで充分」(これは良い意味かもしれんけど)、「夢“なんか”あるの?」など幸一郎が言う度に、形だけの結婚だったんだなと感じてしまった。

この映画ではとにかくレールに乗る人生の退屈さと、そうだとわかっていても乗るしかない女性の立場の難しさが映し出されていると感じました。
そんなレールの上にいた主人公の華子が、レールから外れて自分らしく生きていく姿に胸打たれました。

こういう上流階級の人間はまだまだ自分らしく生きていく事は難しいのかもしれんけど、華子のような決断を出来る人が増えていけばいいなと思わせてくれる素敵な映画でした。

【その他メモ・独り言】
・別荘のクリスマスツリーとかもお手伝いさんが準備してるんやろな。
・結婚の挨拶の時の部屋の入り方とか知らんかったから、金持ちとは結婚できんやろな。
・彷徨:あてもなく歩き回る様。彷徨う様。
・幸一郎の不倫がわかっても相手を責めない華子と美紀。大人な対応過ぎて素敵。
・あのタイプの棒アイス美味いよね。
・三輪車に乗ってるときに友達の元旦那に遭遇するの絶対嫌や。
・時系列無視していいなら、円環構造になってる?
・結婚ってこんな大変なん。
たくみ

たくみ