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The Invisible Frame(原題)の高卒派遣社員のレビュー・感想・評価

The Invisible Frame(原題)(2009年製作の映画)
5.0
前作『Cycling the Frame』から21年。ティルダ・スウィントンが再びベルリンに帰ってくる。かつてあった「壁」はもう存在しない。東西の往来が自由になった土地で、彼女は自転車のペダルを漕ぎながら思索にふける。

西側から東側に足を踏み入れても、景色に大きな違いはないように見える。住宅街、野原、公園、湖。どれものどかなランドスケープだ。しかしティルダ・スウィントンがふと自転車を降りて看板に近づくと、そこには東側から逃げようとして殺害された住民のための記念碑があったりする。確かにそこは第二次大戦後に分断された場所だったのだ。

終盤に一瞬だけ映り込むおびただしい数の黒い立方体は『虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑』だろう。20世紀の負の歴史を詩的なモノローグで紡ぎながら自転車は再びブランデンブルク門に戻ってくる。

ラストシーンでの彼女の台詞(もしかしたら詩なのかも)を引用する。
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Open doors
Open eyes
Open ears
Open air
Open country
Open season
Open fields
Open hearts
Open minds
Open locks
Open borders
Open future
Open sky
Open arms
Open sesame
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”パレスチナの人々に捧ぐ”という言葉で締めくくられる本作。1988年の時点では決して続編ありきで撮られた作品ではなかっただろう。その直後のベルリンの壁の崩壊、東西冷戦の終結、なによりもティルダ・スウィントンのその後の世界的な活躍なくしてはこの作品は生まれていない。願わくば彼女が自転車に乗って世界の「壁」の痕跡と、今なお残る「壁」のこちら側を旅するシリーズとして続いてほしいものだ。
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