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奈落のマイホームのmatchypotterのレビュー・感想・評価

奈落のマイホーム(2020年製作の映画)
3.9
『奈落のマイホーム』。
韓国映画でこのタイトルでこの設定、そそらざるを得ない。

普通の中間管理職の一家の主人が一大決心でソウルにマンションを買う。いわゆる“夢のマイホーム”。
11年もかけてその念願を果たし、夢に酔いしれ、夢に見たマイホームに喜ぶ一家。

住んで2週間、、、それが文字通りの“奈落の底”に。

子供が発見した“床のビー玉コロコロ”、え?
やたらとつっかかってくる隣人が見つけた入り口オートロックのドアのガラスのヒビ、え?
壁、地面、至る所に散見される亀裂、え?

最初は「?」連続。しかし、まさか夢のマイホームが“欠陥住宅”だなんて信じたくない。しかし、どんどんどんどん次から次へと散見される疑惑の数々。

いよいよそれを認めざるを得ず、自分の買った資産の価値が下がることも諦め、調査を依頼をすることを選ぶ。

しかし、そんなことをあれこれおろおろしているうちに、マンション全体が断水になったりして、、、、それが起きる。

“欠陥”はマンションではなく、地盤。この作品の原題にもある“シンクホール”。
何か報道でも見たことあるアレ。
地殻変動、地盤沈下とかのあれこれで地面の下に大きな大きな穴が空いて崩落するアレ。

アレに“夢のマイホーム”が吸い込まれるようにそれごと、いや、残った住人もろとも滑落していく。

そんな局地的な自然災害に巻き込まれたシチュエーションディザスタームービーなのに、なぜだかドタバタコメディの様相で話が進む。

登場人物が至ってドノーマルなどこにでもいそうなサラリーマンであったり、出会いも最悪で行く先々で遭遇してよく分からない関係値を築く同じマンションに住む男とか、この状況下においてキャラがやたらと不釣り合い。

この状況と巻き込まれた人のGAPがとても冴える。
この人達だからやたらと楽観的だし、やたらとモタモタするし、やたらと助けが来ない。

明らかに絶望的な状況なのに、「待ってりゃすぐ来るっしょ、救助隊」とかいう割に、119と書かれたドローンが落ちてきたりすると藁をも縋る思いで騒ぎ立てる。

とはいえ、そこまで深いと這い上がるとかもできず、声も届かず、ほぼほぼすることもなく、集まって待つほかない。一向に事態は好転せず悪化するばかり。

意外とそこはリアルで、動きがない時は本当にない。焚き火を囲むとか。でも何か笑って観てられる。

この絶望的で異常な事態の中を、どこにでもいる人たちがいつでもできそうなことをやったり、騒いだり何かよく分からない“緩さ”がこの映画の全ての布石。

そこからの後半戦。いよいよマジのサバイバルと化していく時に、この「いつまでやってんだよ、そのおふざけ」が効いてくる。

状況と人物にGAPを作り、前半と後半の物語でGAPを作る。
だから後半はどれだけ必死なのかとか、ドラマチックなのかが伝わってくる。

何なら、一瞬さり気なくスピリチュアルな要素も盛り込んでくる。
そんなこんなでいつの間にか手に汗握る展開になって、何ならちょっと感動する。

やっぱりすげぇな、韓国映画。
こじんまりとしながらダイナミックに仕立てる。めちゃくちゃ仕組まれてる。

あの隣人がものすごい強烈なキャラクターで存在感を残し、彼無くしてこの物語は完成しない。

ドタバタコメディと緊張感のあるサバイバルとか、生きるか死ぬかの緊迫感のバランスがちょうど半々ぐらいの作品。


F:1907
M:570
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