安藤エヌ

アンモナイトの目覚めの安藤エヌのレビュー・感想・評価

アンモナイトの目覚め(2020年製作の映画)
3.7
監督の前作『ゴッズ・オウン・カントリー』でその描写力の虜になったので、本作が観れることを心待ちにしていた。オンライン試写で鑑賞。

まず、監督の作家性である自然描写が健在であるどころか更に強まっていることに喜びを隠しきれなかった。海から生まれる音は時に穏やかなだけでなく、人の弱さや頼りなさを浮き彫りにするものである。所々に挿入された自然音のエッジが心地よく、映画の必要不可欠な要素になっていると感じた。

本作の「化石」が持つ意味を考えてみたとき、一時期『君の名前で僕を呼んで』の彫刻というモチーフが持つ意味について考察していたことを思い出した。どちらも「欠けているものが合わさってひとつの身体となる」「不完全さこそが本質である」という意図を持っている、という点から本作について考えを及ばせてみると、何もかもが違うメアリーとシャーロットというふたりの女性が、互いに満たされない思いを欠けた部分として補い合い、愛に結ばれるさまがひときわ美しく感じた。
この場合の「美しい」とは滑らかで細く白い裸体を観たときのそれではなく、潮に浸され乱れた髪に指を通すときのほんの少しの「疎ましさ」もふくんでいる。ただ美しかった、というだけではなく、暗く閉ざされた世界の中に置き去りにされたメアリーの母親が迎えた人生の終焉をも、彼女たちのラブストーリーの一端に虚飾なく描写することや、周囲の男性たちが何気なく言い放つ台詞の渇きによって際立つリアリティもあっての余韻なのだと、観終わったときに深く感じ入った。

発掘者の名前が置き換えられ、尊厳が失われた展示物越しに見る愛した人の姿は、メアリーにどう映ったのか。その美しい指を、身体を、掘り起こした化石の向こう側に立つ人を、どんな風に見つめていたのか。ラストシーンの構図が静かに瞼の裏に残る作品だった。
安藤エヌ

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