もじぱん

FLEE フリーのもじぱんのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.1
こりゃあ凄い........地味なアニメーションなのに、重苦しい現実のストーリーと音だけで、ここまで心に訴えかけてくるものを作れるとは。
ドキュメンタリー、国際映画、アニメの3つ同時ノミネートは伊達じゃない。どれか一つでも受賞と言わず全部受賞してほしかった。

アフガニスタンからの難民である主人公の半生を綴るドキュメンタリー。特徴的なのは本人を特定されないようアニメで作られていること。
声は本人のものを採用しており、また効果音も非常に拘っている。密入国中の船内のきしむ音や警察がドアを強く叩く音などはとても恐ろしく印象的だった。
アニメはコマ数が少なくあっさりした絵柄なのだが、その分行間に想像をふくらませることができ、作品の幅を広げている。むしろ実写よりも真実として訴求する力が大きいとさえ思えてくるのだがら面白い。

紛争、難民に加え、LGBTQも大きなテーマとなっている。日本もなかなかだが、アフガニスタンでの同性愛者の無理解はそれ以上だ。家族であれそれを告白するのは大きな勇気がいる。難民であり社会から孤立した中で、さらに家族にも打ち明けられず孤立する主人公であるアミン。何重にも孤独と苦難で雁字搦めにされていて、現在の彼があるのはとても運が良かったのだろう。その胸中は自分如きではとても押し測れない。

アフガニスタンでムジャヒディンが政権を打倒したことに端を発するが、これを支援していたのは当時のアメリカだ。政権を倒したムジャヒディンはのちに内部分裂し、タリバンが生まれる。こうした国際情勢を聞いているだけでは難民一人一人の顔は見えてこない。明日も生きれるか分からず、ある日突然家族の1人が捕まって一生会えなくなったりする、そんな生活など想像もできない。

自分は彼らの気持ちを想像することしかできないし、すべて理解するのは不可能だ。でも今ある自分の生活を、彼らに比べて恵まれているから大事にしようと再確認するためだけの作品にはしたくない。それに想像できないだけで、自分だって明日死ぬかもしれないのだ。この作品を見て、今ある自分が何ができるのか問い続けなければならない。
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