TaiRa

スパイの妻のTaiRaのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
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思った以上に“男と女のラブゲーム”してて好感。どうしたってNHKドラマに見えるのが何とも。

戦争やサスペンスを端へ追いやって、ドンと構えるメロドラマの図々しさが愛らしいので、個人的には好きな部類。黒沢清に撮って欲しかった「スパイ」と名のつく映画はこれではなかった気もするが、劇中劇の自主映画なんかには観たかったものの片鱗が映っていたし、まぁ良いか。なんちゃって昭和映画という体裁だが、別にそこをやらなくても良かった気はする。やる理由なんて脚本の濱口・野原が黒沢にやらせたかったという事でしょう。スタッフもNHKドラマ班の面子らしく、大河っぽさは拭えない。それでも長回しと動線の工夫は楽しかった。フレーム内外への意識も。時代モノ故の制限がフレーミングに工夫を要求したのかもしれない。役者だと、卒なくやっていた蒼井優や高橋一生よりも、振り向き顔一発で記憶に残る玄理や、『予兆』で用法を把握した東出“デカくて怖い”昌大なんかの方が良かったように思う。画面に差し込む強烈な光が全て上手く行ってる訳ではないと思うが、バス内での耳打ち後に蒼井優を包み込む光なんかは官能的で良い。妻が夫と共犯関係を築ける事にときめくというのも良かった。ここから男と女の逃避行が成就されるのか、という流れ。もはや国も、戦争も、真実も、正義も関係ない。妻は夫と楽園を目指す事だけを求めてる。それが叶うなら身内だって切り捨てるし、国なんか捨ててしまう、世界が終わろうが構わない。そういう女を肯定する黒沢清、やはり好きだな。
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