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スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのtsuyocinemaのレビュー・感想・評価

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2018年公開の前作「スパイダーバース」がコミックをアニメーション映画にしたときに
あらゆる表現の可能性や自由さを表現した全世界のクリエイターの度肝を抜き金字塔作品になってしまった。
近年の日本のアニメ映画での傑作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」「THE FIRST SLAMDUNK」も
確実に「スパイダーバース」の影響下であり、日本からの回答であると思っている。

そんな中で、本作は軽々と過去作を超えて、
また途轍もないコミックのアニメーション表現を作ってしまった!
と言わねばならぬのが現状!

またしても「BEFORE/AFTERアクロス・ザ・スパイダー・バース」という
分水嶺を建付けるとともに自己記録を更新中という感じ。

まず前作と同様にマルチバースのあらゆるスパイダーマンが作風バラバラに登場するも
同じ世界の中でスムースに共存することのリアリティラインが損なわれず、
キャラや作画のトンマナが変化するのもスムースに感じられるのが流石!(しかも前作を圧倒する登場人物数!)
音楽に関してもやはりスムースに乗っている。
ギャグの小粋さやPC意識の高さなどのウェルメイドである。

上記だけでもすごいのだが
本作の更なる進化として内容としては
第一に網点表現、版ズレ、といういわゆる紙での印刷物のコミックをアニメーション映画に持ち込むという表現。
過去作でも網点表現はありつつも、今作ではより網点を分かりやすく描くことでコミックとしての強度を増している。
これは前作スパイダーPIGが「マンガで何が悪い?」を推し進めており、クリエイターの矜持を感じてしまった。

版ズレ表現は至るところに入れており、こちらはコミック表現の強度を増すだけでなく、
キャラクターの周りのモブキャラや重要でない背景をあえてぼやかす作用を感じた。
本作は非常に要素が多いなかで、あえて視点の置き所や重要性をさながらカクテル効果的に表現しているかと思う。

2つ目は360度を目まぐるしくグワングワン動かす表現
トンマナもスムースに変わるし、要素も多く、スピーディーなのでジェットコースターに乗っているようで
正直酔っぱらってしまうほど!
スパイダーマンの“動き”をスピーディーに表現するために必然なこの360度縦横無尽な画面の使い方は見事すぎる!!
これは恐らく前作「スパイダーバース」に対抗して庵野監督が「シン・エヴァ」でやりたかった表現だと思うし。
更に上にいくようなアンサーとも思しき途轍もない高みだった!!

3つ目はこの世界観を構築した仕組み。
途轍もなく優秀なPM(プロジェクトマネジメント)により150体くらいのスパイダーマンがいる世界
それに応じた作風が混在し、1本になる世界は出来なかったと思うが、これが出来ている。
各クリエイターのコミックへの矜持やこだわりをまとめ上げるPMのすごさは感服でもあり、
井上雄彦がバスケットを表現するというエゴと美学で作った傑作の「THE FIRST SLAMDUNK」との比較も面白い。
どちらもスゴイのだが、本作は属人性をある程度排してプロジェクトとして成立してさせている。

そしてこんな壮大なマルチバースを描きつつも家族や大切な人との関係性を描き、
ナイスなやつであれ!とメッセージに込めてるのって同じくマルチバース映画である「エブエブ」と共通なのが非常に面白かった!!

ちょっと要素多すぎて拾いきれなかったので、何度も観たい作品です。
ひとまず、スパイダーマンが好きとか嫌いとか関係なく、
現在最高峰の表現を劇場で観れるうちに観といた方がいいかと!

■ほかに良かった点
・グウェインの心象風景が反映した水彩画のタッチのアニメーション
・ハリウッドシナリオの放蕩息子の帰還という王道ストーリー
・食べて祈って恋をしてディス
・PUNXは常にかっこいいなぁと馬鹿みたいだけど熱くなったっす
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