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悪は存在しないのtsuyocinemaのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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自然豊かな長野県水挽町は、近年移住者が増加傾向で緩やかに発展している。その地に暮らす便利屋の巧は、娘の花とともに暮らしている。
ある日、家の近くでコロナで打撃を受けた芸能事務所が補助金を当てにしたグランピング場の設営計画が持ち上がる…
監督は「ドライブ・マイ・カー」でアカデミー国際長編映画賞、カンヌ国際映画祭脚本賞、「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督。本作は音楽家の石橋英子と濱口監督による共同企画として誕生した。





本作を観て「濱口監督の映画は構造的だ。」という印象が「濱口監督の映画は建造物的だ」に変わった。

彼はテーマやコンセプトを明確に提示したいというよりも、テーマやコンセプトを元に様々な要素を組み上げた立ち上がった建築物自体を観客に見せたいのかもしれない。

しかし、そのおかげなのか彼の作品が割とシンプルな普遍的メッセージやテーマ(本作でいうとバランスの重要性みたいなこと)にして、タイトルでも表明しているのに重厚感や深度を感じさせる。
それは映画の建造物的奥行きが成せる業なのではないだろうか?


上記簡単に立つと彼の製作プロセスは映画構成する要素(柱)としての役者にあえて巧さや感情の起伏は必要なく演出し、無機質なテキストとしてセリフを言わせる。もちろん著名人のキャスティングをする必要もない。
その要素(柱)は幾層にも組み合わされ、機能する(役者にテーマについての側面を見せるという群像劇的な様態)ことによりテーマを立体的にしている。そしてその要素(柱)には役者やセリフだけでなく、音楽、あらゆる映像が当然あるが、それらは映画という構造物を構成するために等価な部材にみえる。

知らんけど…
というくらい何か彼の作家性とテーマについて、映画全体の印象の構造的繋がりなど色々考えが巡らされまくりました。
もちろんラストの解釈も。
あらゆる思考を促す系の監督でいうと近年一番好きな監督の1人かも。


もちろん石橋英子の持ってかれそうな没入感(特に前半)ある音楽も素晴らしかった!



ちなみに建築的でいうと過去作との比較で言うと『ドライブマイカー』は村上春樹の短編とベケット、チェーホフの作品を再構築〜1作品に統合。
『偶然と想像』は通底テーマは恋にまつわる3短編を上映。両作品とも個別作品ごとにテーマを持ちつつもそれぞれのテーマが作用/反作用しつつ、総合したテーマが浮かび上がる幾何学的デザインの建築物のような映画。
一方、本作は「バランスの重要性」というテーマ頂点に向かって登場人物、風景、音楽、視点…
ズドーンと高速で組み上がり出来あがった東京タワーのような印象だった。

◎その他良かった点

・「それ味じゃないよね?」「人手はいるから」で爆笑ポイント!

・フラットな喋りなんだけど、それを感じさせないコンサルの嫌だ味感
(現実のコンサルが話す言葉がセリフとして「読んでる」だけだからかもな)

・土地の持つ記憶や住民が持つ土地に対してのグリッド感、匂いまで湧き立つような自然映画
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