このレビューはネタバレを含みます
ドキュメンタリー的手法を用いて現代の"放浪の民"ノマドの生き方に迫ったドラマ。
住宅バブル崩壊による不景気に伴い、住む家どころか街すらも失った、フランシス・マクドーマンド演じるファーンが車上生活を送るようになるという話で、ノマドの決してラクではない暮らしやキャンプに集うノマド達との交流が描かれる。
実際にアメリカにはノマドが一定数存在するらしく、本編で描かれている通りAmazonなどの工場では年末にノマド達を季節労働者として大量に雇い入れたりもしているらしい。
ノマドの多くは職を無くした高齢者で、いわゆる「没落した中産階級」に当たり、現代社会に即したテーマでもある。
アメリカ中西部の広大な自然を映したショットが素晴らしかった。
日没前、日の出後の薄明の時間帯・マジックアワーでの撮影が多く、タフな撮影だったことを感じさせるが、とても美しかった。
西部劇などで多く見ているはずの広大な土地、荒野がアメリカにこれだけ残されていることに改めて気付かされた。
ニューヨークやロサンゼルスなど、海岸部の発展した大都会だけでないアメリカの側面に再び脚光を浴びせた点も素晴らしい。
ストーリーは、過去の思い出を引きずるファーンの心理に寄り添っており、新しい生き方を選んだファーンが、かつて住んでいた家から再出発するラストも良かった。
作品賞は『ミナリ』ではなく本作が撮るだろうなと思う。