職も、夫も、家も、故郷も失った女性は一台のヴァンに生活必需品を詰め込み旅に出た。
旅とはいっても目的は観光ではなく、日銭の為に日雇い労働を繰り返す日々だ。
家族も一人残された彼女を心配してくれてはいるが、そこにやっかいになるのは気が進まない。
もちろん家族が嫌いな訳ではないのだが、そこはもう彼女の家ではないのだ。
上手く生活に馴染めずにいた所に、車上生活をする人々〈ノマド〉の集いに同僚から誘われ参加をする。
初めは警戒気味だった彼女も、生き急がずに最低限の暮らしを続ける彼らに心を開き始める。
幾つもの旅路、ノマドの人々や自分との対話を経て彼女が見つける家とは。
まず音作りが繊細で初めのシーンから魅入ってしまった。
布ずれの音、床の軋む音、風の唸る音に、ヴァンや重機の駆動音。
過去への憧憬や隣人への気遣いなどの"想い"を物に語らせる本作において、まさにこの音のおかげで無機物にも命が宿っていたと思う。
BGMは少ないがそれは身の回りの生活感を際立たせる為なのだろう。
その広大なアメリカの原風景とそこに住むちっぽけな人間を映した画も良かった。
夕焼けの空模様も、森の豊かさも、その気温の変化さえもフィルムに焼き付いている。
自然を礼讃する為ではなく生きることの思索の場として、この循環する美しい土地を選んだのだと思う。
運転席のファーンの横顔も印象的だった。あの瞳の綺麗なこと。
そして何よりノマドの人々の存在だ。
彼らは自由を愛しそれに美を見いだすヒッピーとは違い、主に経済的理由から穏やかさを求めてこの生活をしている。
確かに資産や権力はないがそれに逆恨みする事はないし、痛みを分かち合い自分に正直に生きる術を知っている。
進んでノマドの生活を選ぶ人はいないかもしれないが、そこには傷を持つ人だけが見ることの許される世界が広がっている。
そしてまた自分の故郷に帰ったとき、流れる涙があるだろう。
それは自分が傷を受け入れた証であり、その時初めて既にその傷が癒やされていた事に気づくのだ。
自分が一番好きなのはピアノの連弾のシーンで、ついにデヴィッドに訪れた父子の和解とそれを見つめるファーンの姿に心揺さぶられた。
あなたの心に残ったシーンはどこですか?