いい映画...映画館でみたかった。
「終活キャンプ」の擬似体験というか、理解できない人を理解できるようになるという意味で、まさに世界の広がる映画。
いつ大切な人・仕事・住処がなくなるか、は誰にもわからないわけで、同じ立場に立ったときに自分にもこの選択肢は考えられるなぁと思ったし、現時点でもどこか憧れてしまう部分があった。
自助グループのシーンの主張はかなり印象に残っていて、自分もお金や時間に消費されて生きている部分が強くあるので他人事に思えなかった。『空白』でも同じことを思ったけれど、結局人生は巣から飛び立つ大量の燕、みたいな「生きててよかった」と思えるような些細なシーンにどれだけ立ち会えるかなのかもしれない。
劇的な演出を排除しているのもすごくいい。身近な人との死も別れも明確に描いていなくて、親しくなった彼の家から無言で立ち去るのとかすごく彼女らしいし、あそこで喧嘩したりしたらこの映画じゃなくなってしまったと思う。カット割とか尺とかすごく的確で素晴らしい手腕、自主でたまにみる"生っぽい"のレベルじゃない。
KVの「美しい野原に独りで佇む老婦人」という設定がもはや全てで、超高齢化の現代において老後の貧困や孤独って誰しもが考えないといけない問題だとは思うけれど、それをすごく劇的・過酷に描くわけでもなく、美化して描くわけでもなく、ただ淡々とドキュメンタリーのように描いているのがこの映画の凄さだと感じた。
オスカーに限らない話だけど、今の映画は社会課題を描くことが当たり前になっている中で、あまりにもテーマが先に走りすぎて映画に消費されてしまっている例もあるけれど、そうなっていないところがさらに一歩先に映画というものを連れて行った感じがした。作品賞を取って多くの人がみるきっかけが作られたことに意味がある映画だったと思う。