Ryo

ノマドランドのRyoのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.3
人生を模索し何を得たのか

■テーマ
監督はこのような声明を出している。
「人はやって来ては去る。街は栄え滅びる。全ての文明は現れては消える。しかし大地は残る。形を変えながらも大地は残る。胸を打つ美しさと共に、人間の考えることなんて幻だ。確かなモノは岩だけだ。岩と大地だけだ。」
人類においてもそうだがアメリカは特に移民の国であり元々遊牧民がいた。そこから街は栄え今の形を成しているが遊牧民がまた増え開拓の時代に戻っているのかもしれない。
結婚や新築の家、お金が幸せだと思い我々は生きているがそういった物や場所に縛られず自由に生きていく事も幸せになる手段である。

■作風
クロエジャオ監督は元々フィクションとノンフィクションを掛け合わせた作風で、原作は実際のノマドに密着したりインタビューを書き下ろした「ノマド 漂流する高齢労働者たち」である。
主人公のフランシスマクドーナンドは実際にノマドとして生活したり、原作でインタビューを行った実在のノマドを実際に出演させている。

■ノマド達の仕事
今作ではAmazonや国立公園の仕事がさも楽しそうに描かれているが実際は低賃金でとてもきついという記述が原作にはある。しかし撮影許可を頂いてる為このように描くしかなかった。ザ・ライダーでも実は暴れ牛に乗るカウボーイはそれほど人気はなくなっていた。
しかし監督は敢えて辛そうには描きません。彼らはノマドになったおかげで自由で幸せになれたと自分に言い聞かせる事で強制的にこの生き方になってしまった事を払拭しようとする。監督はこの意図を汲み取り辛そうには描かずインタビューでも「社会的告発をしたいわけじゃない」と言っている。

■監督は何を描きたかったのか?
インタビューでこれまでの三部作は詩なんだと言っている。


■なぜ車上生活車が増えているのか
アメリカでの60〜65歳以上で年金や貯蓄で暮らしていける割合はわずか17%以下。さらには賃金が安く働く機会の少ない女性は更に年金の額が落ち、技術を持たない人も多い為苦労しているという。

■今作の描く自由
しかし今作はそんな貧困を描くのではなくずっと同じ街で住んでた主人公ファーンは突然車上生活になったおかげでアメリカの広大な大地を旅する事になる。守るものも留まる理由もなくなり完全な自由になる事で新たな世界を見て、新たな人生を始める。
その為、ツアーで1人抜け出し岩を見て喜んだり、一緒に住もうと言ってくれた人達の元を去りまた広大なアメリカの世界に乗り出した。男の家を去って崖に向かった時から主人公の再生の物語が始まる。それは物質的な家よりも心の拠り所(家)を求めていたからだろう。

■倉庫に残していた物を売った理由は?
物に囲まれエンパイアという街に留まってた主人公は取り囲む全てのものがなくなり完全な自由となりました。しかし夫の物をずっと持っていたり思い出のものをずっと使用したりと未練が残っていた。セリフでもあったように思い出を引きずり過ぎていた。夫やエンパイアでの思い出は物はなくとも心の中で生き続ける。そこで主人公はエンパイアへと戻りますがそこでは良くも悪くも人のいない殺風景な地を見てもうそこには何もない事を悟り。また、新たな人生を始めるのです。
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