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ノマドランドのMUのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を原作として中国人のクロエ・ジャオによって作られたドキュメンタリータッチな映画だった。主要な役者2名を除く他の出演者は実際に車上生活を送っている一般人である為、文字通りドキュメンタリータッチで映像に説得力があった。

特に何かが起こる訳でなはい地味な映画だが、アメリカの広大で美しい自然やアメリカの貧富の格差が描かれている。
主人公は夫の病死やリーマンショックによる不況によって映画にあるような暮らしを送っている訳だが、小型のバンでアメリカ中を転々として、日雇い労働でなんとか食い繋いでいる。
そんな中でも主人公は自分の頭で物事を考え、アメリカ人としての開拓者精神を体現し、むしろそういう生活を楽しんでいるようだった。

主人公のように車上生活を送る人たちは定職が得られず、アマゾンの倉庫など低賃金で過酷な環境で日雇い労働をしている。アマゾンのサービスを日常的に利用している身としては、低賃金で過酷な労働を作中の人々に押し付けているのではと後ろめたい気持ちになる。資本主義とはこういうものだし、自分自身も廉価で便利なサービスを享受しているので、善人ぶってアマゾンを批判することはできない。

「貧すれば鈍する」という言葉があるように持つ者と持たざる者の格差は広がっていくのだろう。

どういう生き方を選ぶのかを視聴者に哲学的な問いをなげかける、良い映画だった。
ただ残念ながらコスパ、タイパ思考の人には資本主義の敗者の貧乏臭い話だと正しく理解されない可能性もある。
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