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アイダよ、何処へ?のILLminoruvskyのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.2
原題『Quo Vadis, Aida?』 (2020)

監督・脚本 : ヤスミラ・ジュバニッチ
撮影 : クリスティーネ・A・マイヤー
編集 : ヤロスワフ・カミンスキ
音楽 : アントニー・ラザルキーヴィッツ
出演 : ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ、他

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最中、1995年7月に起こった第2次世界大戦後の欧州で最悪の大量虐殺事件とされる
「スレブレニツァの虐殺」を題材とした、国連平和維持軍の通訳として働く女性を主人公に、家族を守るため奔走する彼女の姿を通して、事件当時に何が起こっていたのか、虐殺事件の真相と悲劇を痛切に描き出す戦争ドラマ映画。

紛争地域に紛れ込んだかのような凄まじい緊張感と臨場感ある「反戦映画」名作。

「戦争の愚かさ」映画。

主人公アイダの視点を通して、加害側となるセルビア人勢力と、相対する国連平和維持軍のオランダ人部隊、その狭間で巨大な被害に遭うボシュニャク人の住民たち。という、スレブレニツァの虐殺をめぐる“三つの立場”と各々の行動を映し出した作品。

スルプスカ共和国軍が迫る中、国連の平和維持軍のお役所対応、海外の上層部の無関心や休暇による支援の欠如によって大量虐殺から住民を守る人道的な防衛手段を提供できず悲劇を招いたという、人道的介入の限界を突きつけ、紛争地域のリアル、人間の尊厳を踏みにじるジェノサイドの残酷性、かつての隣人、知人同士が傷つけ合う戦争の空しさや愚かさを観る者に訴えかけ、現代社会を生きる我々に警鐘を鳴らす一作。

「私はスレブレニツァの虐殺だけでなく、アイダのスレブレニツァへの帰還を描くことで、映画を現代と繋げたいと思いました。戦犯たちが現在も暮らしているスレブレニツァに帰り、彼らと向き合った女性たちの話を聞いたとき、彼女たちの勇敢さには脱帽しました。このような痛みを抱えながらも皆のことを考えられる心を持つことがどうしてできるのか、自問しました。
主要な戦犯たちには有罪判決が下されていますが、スレブレニツァでは戦争に手を染めた人間が大勢いて、全員が裁きを受けたわけではありません。もし皆が復讐を唱えだしたらボスニアはどうなるでしょうか。いまだに戦火の渦中かもしれません。
聖書にもある話ですが、自分たちが迫害された場所へ戻るという彼女たちの行動に大変感動しました。彼女たちはこの世を超えた何か、聖人たちに帰するものを持っている。私にとっての今日の聖人は女性たち、特にスレブレニツァの女性たちです。そう考え、神話や帰還についての物語を調べました。そして聖書の物語が完璧に合いました。加害者たちがいる場所へのアイダの帰還は、まさに私が彼女の“旅路”に対して感じていたことと同じだったのです。」
- ヤスミラ・ジュバニッチ -
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