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国境の夜想曲のTagoMagoのレビュー・感想・評価

国境の夜想曲(2020年製作の映画)
4.9
放心状態。この気持ちを言葉に出来るはずないししたくもないわ。

でもこの感触を少しでも記録しておくために書いてみる。

戦時下のイラクやシリアの生活がただ淡々と、在るがまま美しく在る自然と共に映し出される。

高度にオーガナイズされた兵士も、ゴミや汚れが全く見当たらない整理された町も家も、恋人の語らいも、アメリカ軍の車両も、ISISが囚人たちを運動場に出すことすらも、

人の営みとして地続きに映し出す人間感。

戦争映画の傑作『最前線物語』同様、戦争を人の営みだとして見つめる視線。

そして、待つこと。

春を待ち、辛抱強く夜明けを待つこと。

生きる為だけに行動する少年アリが木陰で少し息つく時に眺める枝と葉。あの目はまだ美しいものに視線を送っている。本当に強く、儚い。かの地を美しく切り取り切る覚悟は、多分あの目を見たことと深く関連してると思う。

なぜこの人達がこんな状況になるのか。その理由は画面には一個も映らない。ウクライナはなぜ侵攻されてしまうのか。

結果だけ見れば戦争は人間の営みだと思わざるを得ない。そしてその事実に目をそむけず、なぜ起きるか考えることもまた人の営みになる。

濱口竜介監督との対談も素晴らしい。2人は確実に共通する思考で映画を更新しようとしてると思う。

ビターズエンドさん配給ありがとうございます。
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