ぺん

親愛なる同志たちへのぺんのレビュー・感想・評価

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)
3.6
旧ソ連ノボチェルカッスクで起きたスト鎮圧のための銃殺事件。
フルシチョフ政権下で困窮する労働者の起こしたストは大規模なデモに発展し、群衆は共産党本部を目指す。やがて軍が出動しKGBも駆り出され秘密裏に市民に発砲。
党で幹部として働くシングルマザーは、共産主義を信奉し市民を批判する側にいたが、事件に一人娘が巻き込まれてしまうことから混乱していく。

コサック兵であった父親と労働者である娘は主人公と対照的な思考をしていて、度々衝突する場面もある。
娘の安否を気遣い奔走する主人公は、信じ続けていた国家に疑問を持ち始めアイデンティティが揺らいでいく。
その過程やストーリーは映画としてそこまで面白味を感じなかったのだけど、こういった過去の事件を当事者、しかも共産党員側から鋭く描いた意義は感じる。
モノクロとアスペクト比の演出で、彼女たちの息詰まる様子が映される。

一方、KGBの男が主人公へ肩入れする流れは不自然に感じた…(一目惚れしたからとしか思えん…)
まぁ軍もKGBも市民も、当たり前に色んな考えや性格を持つ人間により構成されているというね。。
結末は当たり障りなくてやや拍子抜けしちゃったが、上映禁止されないようにこう作ったのかな…もしや。

幾度も戦乱や国家崩壊を経験したロシアは、時の政府に都合の悪い事実は国民に隠蔽されていた。現在のウクライナ侵攻にあたってもそれは色濃く残っていると思われる。
いくら情報統制を敷いたところで、劇中にも出てくる「こんな国は外に誇れない」という嘆き、「共産主義以外に何を信じれば良いの?」という叫びは止められず。
現在のロシアのみならず日本にも他の国にも通じる気はする。

コサック兵の衣装を身につけ、故郷の親族について思いを馳せる父親が今作の最高潮。
ウクライナコサック兵の歴史を見てみることで、ロシアとウクライナについても理解が深まると思えた。
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