ヒチ

死ぬ間際のヒチのレビュー・感想・評価

死ぬ間際(2020年製作の映画)
4.8
大傑作。殺人を犯した男が逃避行の最中に幾つもの死を目撃し、それらが一篇の詩になっていく。主人公が出会う女性は彼から何かを感化されたかように殺人を犯し、それが彼女たちにとっての救いとなる。最初の女性は父親、二人目は夫、三人目は自分自身、四人目は母親を殺すことで自分たちを縛る鎖から解放される。最初は粗暴な青年にしか見えなかった主人公は聖者のような存在になるが、彼自身も彼女たちの殺人の奥底には愛があることを悟り変わっていく。終盤に亡くなった夫の帰りを待つ女性の元で独白する主人公の姿は神父に懺悔する罪人そのもので、この逃避行が贖罪の旅だったことが分かる。そして最後は、自分が最も愛しながらも傷つけていた母親の元へと戻り旅の目的を終える。

全体的にシリアスな物語だけれど、殺人犯を捕まえるはずがいつの間にか聖者の行いを記録する使徒のような役回りになってる3人組がコミカルで良い息抜きになってて良かった。主人公にいつまでも逃げられて自らの役割に困惑する姿は、
まるで『ゴドーを待ちながら』の2人みたい。罪人であるはずの主人公が聖者のような存在になったのは、この世界では最も罪深い者こそが聖者になれるって逆説なのかな。正直映画としての面白さはそこそこなんだけど、一つの寓話として物凄く完成度の高い作品だった。
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