カポERROR

いとみちのカポERRORのレビュー・感想・評価

いとみち(2020年製作の映画)
4.4
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皆々様、新年明けましておめでとう
ございます•*¨*•.¸¸♬︎
本年も宜しくお願い申し上げます
<(_ _)>
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2024年の元旦に観る作品を考えていて、以前フォロワーさんのレビューで気になってClipした本作『いとみち』をふと思い出した。
たまたま明日、私が実家に帰り両親と会うため、これはネタになるかもしれないと思い立ち、鑑賞することに…。
そう、以前のレビューでも触れたように、私の母は青森県弘前市(ひろさきし)の出身なのだ。
私も中学までは、年の内1ヶ月間近くをこの母の田舎で過ごした。
そして本作『いとみち』は、青森県弘前市の高校に通う駒井蓮演じる【相馬いと】の物語。
あらすじは、以下の通りだ。

✤✤✤

三味線を弾くときに指にできる”糸道”が自身の名前の由来である【いと】は、祖母や亡くなった母から引き継いだ津軽三味線を特技としているのだが、強い津軽弁訛りと人見知りのせいで、本当の自分は誰にも見せられず、友人もいない。
そんな彼女が小遣い稼ぎのために思い切って始めたアルバイトが、青森市内のメイド喫茶のメイド店員だった。
そこで、少し憂いのあるイケメン店長、シングルマザーの幸子、漫画家を目指す智美ら先輩メイド、そして、風変わりな常連客たちと出会う。
父・耕一(豊川悦司)は、メイド喫茶で働く【いと】を複雑な心境で見守るのだが。
果たして【いと】は、本当の自分を解放し、自分らしく人生を奏でられるか…という少女の成長を描くストーリー。

本作、軽い気持ちで鑑賞し始めたのだが…私には激ヤバな内容だった。
はっきり言おう。
謹賀新年の忖度なんか抜きで、オールタイムベスト10内にランクイン決定!
何故今までこの傑作を観なかったのか、自分自身を呪うばかりだ。
世の弘前に縁のある諸君で、未見の者は全員鑑賞必須!
まず、冒頭いきなり【板柳駅】が登場して絶句した。
私の母の実家は、弘前市貝沢(かいざわ)字大字字字(あざおおあざあざあざ)なるとんでもない山奥の秘境なのだが、その家から車で30~40分かかる”最寄り駅”がこの【板柳駅】なのだ。
よく叔父さんに、駅前で駄菓子買ってもらったっけ。
私はこの段階で早々に本作との縁(えにし)を感じた。
そして、多くのレビュアーが「津軽弁がキツすぎて意味が分からなかった」「字幕を付けて欲しい」と評していたその会話も、私は全部聞き取れて容易に理解出来たのである。
何なら、作中の津軽弁は、私が子供の頃爺ちゃんが話していたそれよりも遥かに聞き取りやすい。
爺ちゃんの津軽弁は、通訳代わりに付き添わせた地元の従兄弟でさえ全く理解不能だったのだから。
そんな訳で、作中の津軽弁は私にとってなんの障壁にもならなかった。
それどころか、私はヘッドホンでこの津軽弁のシャワーを浴び続け、あたかも40~50年前にタイムトラベルをしたかのようだった。
「え?板柳から青森までバイトで通う?無理無理!」とか、「婆ちゃん、干し餅をあの干し紐くくったまま渡してるw」とか、ローカルツッコミを入れつつ、気付けば不器用で素朴な【いと】の魅力の虜になっていた。
そしてそれと同時に、父【耕一】への感情移入がヤバすぎたのだ。
私が本作を鑑賞していた隣の部屋では、私の娘があと12日後に迫る大学入学共通テストに向け、最後の追い込みに励んでいる。
今では殆ど私と言葉も交わさなくなってしまった18歳の娘。
作中では、父に多くを語ろうとしない【いと】が、父からバイト先のメイド喫茶を罵られたその時にこう口から絞り出す。

「わのチューニング…とっちゃさは聞こえねべ」

雷が直撃したかのようなショックだった。
【いと】と実の娘がシンクロし、このたどたどしい台詞が私の心に突き刺さったのだ。
苦しくて、いつの間にか涙ぐんでいた。
壁一枚隔てた隣の部屋の娘に想いをはせ、どうすればお前の心のチューニングを聞き取ることが出来るのかと、自問していた。
そんな【いと】は素晴らしい仲間達や新しい友達や婆ちゃんとの触れ合いの中で、自身の気持ちを素直に伝える術を見つけ出していく。
父もやがて店を訪れ、そこで真剣に働く【いと】に「けっぱれ」とエールを送るのだった。
そしてクライマックスで披露される【いと】の津軽三味線『津軽あいや節』の圧巻の演奏。
ただただ感涙。
ラスト、岩木山を歩いて登り板柳を遠くに見下ろした【いと】と父【耕一】の二人の間に、かつてのわだかまりは無くなっていた。
私も、娘とこんな風に心を通わせるハッピーエンドを迎えることが出来るのだろうか…。

✤✤✤

皆様ご察しの通り、本作が極めて個人的に刺さる内容だったことは否定しない。
だが、そうした色眼鏡抜きでも、とても温かく前向きになれる素晴らしい作品であると胸を張って申し上げたい。
特に、主人公【相馬いと】を演じた駒井蓮は、津軽三味線の厳しい稽古に一年以上を費やし本作に臨んだそうで、その真剣な熱量が半端なく伝わってきて実に素晴らしかった。
ただ…もし本作を母に観せたら、ツボにどハマりして「おめ、今度の母の日にこのDVD買ってけごせ」と言い出しかねない。
くわばら、くわばら。
青森県民に限らず、本作未見の方は、是非御鑑賞頂きたい。
『いとみち』はU-NEXT、Hulu、DMM TVにて配信中。
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