木野エルゴ

ナショナル・シアター・ライヴ 2020 「シラノ・ド・ベルジュラック」の木野エルゴのレビュー・感想・評価

3.2
シラノドベルジュラック
恋人の外見を最初に愛して、手紙を貰うたびに外見より中身の知性が重要だと思うようになった。しかしその手紙が別人の手によるものだとしたら。2人の人間を愛したことになるのか、それともどちらも幻想だったのか…

ずいぶん前に舞台で見た「シラノ・ド・ベルジュラック」とは印象がだいぶ違っていた。腕っ節が強くマッチョでアウトロー、そして人の心を強く惹きつける言葉をもった詩人。ジェームズ・マカヴォイ、サスペンスドラマにビル・ナイの息子役で出てたり、スポーツ恋愛映画でポール・ベタニーの弟役だったり、アンジェリーナ・ジョリーに振り回されたりと、割とチャラくて線の細いイメージが強かったのに、こんなに図太くマッチョな役がハマる役者になっちゃって。なんかトム・ハーディと似てると思った。彼も昔は線が細くて軽い役が目立ってたけどいつのまにかマッチョになってて、だけど芯の繊細さは変わってなくて。タイプは違うんだけど、世間に対して斜に構えたような雰囲気や、豪快さと繊細さが同居する複雑さを見事に表現できる巧さ、カリスマ性をもった役が演じられる、比較的若い年齢の役者の中でも特出した2人だと思う。知性と荒々しさが交互に現れるシラノという役にこれほどハマる役者はそうそういないだろうなぁ。

文学とHOP HOPという同じ根っこを持った全く毛色の違う花同士が見事に組み合わさった、ナショナルシアターならではの質の高さが素晴らしい作品だった。ローレンス・オリヴィエ賞でリバイバル賞を獲ったのも頷ける。
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