ムギ山

空に住むのムギ山のネタバレレビュー・内容・結末

空に住む(2020年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

Amazon Primeビデオにて。青山真治の遺作だが、わたしはこの人の映画を見るのは初めて。

見る前は、三井不動産かどっかがお金を出して作ったタワマンのプロモーション映画かと思っていた。マジで。もちろんそういうのではなかったのだけど、主人公は親戚の好意で家賃なしで高級マンションに住んでいて、勤め先は「良い本しか出さない」と言う社長が経営するちょっと変わった出版社という設定で、ちまちましたリアルな経済的葛藤とは無縁であるという意味では、不動産広告的な世界観と通じるところがある。つまりこれは一種のファンタジーとして見るべきなので、多部未華子が料理上手と言いながらそれほど普段から料理を作っているように見えなくても、マンションのエレベーターで一緒になった若い男がいきなり部屋に上がり込んできても、鶴見辰吾と美村里江という結構年のいった夫婦が子供を望んでいても、「この世界ではそういうものなのだ」と受け止めなければならないのである。実際、徹底して生活感を欠いたこういう人々ももしかしたら本当にいるのかもしれないとちらっと思ってしまうくらいには、この世界に浸ることができていたのである。途中までは。

雲行きが怪しくなるのは、中盤猫が死んでしまう辺りから。この猫さん、ちゃんとお話に沿った芝居をしているので賢い子だなーと思って見ていたのだけど、なんかいきなり病気になってあれよという間に死んでしまい、それがえらい唐突というか「お話の都合のために死なせられた」というふうに見えてしまう。そしてそれを境に、主人公と叔母さんの感情がすれ違うようになったり、オムライス好きのはずの男が「タマゴ嫌い」と言い出したり、職場の後輩の妊婦が「破水した」と電話で助けを求めて来たくせに道端で「ここで産む」だの「産めない」だのとわけのわからんことを言ったりするのである。いや、登場人物の行動がかならず常識的でなければならないということではなく、それぞれの論理なり感情の筋が作品のなかで通っているように見せてほしいわけである。後輩のわめく場面なんてひどいもんで、それに対して主人公がドスをきかせた声で説教し出すのだけど、あんなのパニックで錯乱してるだけなんだからとっとと救急車に乗せりゃあええねんとしか思えず、本当にイライラした。また、主人公が男にインタビューしたあとそのままラブシーンになだれ込み(それもどうかと思うけど)カットが変わると主人公が一人で裸で寝ていて、起きて猫の亡骸に向かって「済んだよ」というのがマジで意味がわからなかった。行為のあと男を殺しちゃったのかと思ったほどである。

というわけで、前半はそれなりに面白く見られるのに、後半の展開が強引というか非常に人工的な印象なのである。クレジットを見ると原作の小説が小竹正人、脚本が池田千尋、監督・脚本青山真治となっているけど、この強引さの源はだれにあるのでしょう? (と言いながら原作を読む気にもなれない)あとからこれがキネ旬ベストテンの9位だと知って2度びっくり。

トップシーンの防犯カメラみたいなエントランスの映像が、劇映画っぽくなくて面白い。また主人公が男と初めて結ばれる場面の直後に、突然グラスが割れるところはすごくびっくりした。最後の方の、部屋から見上げた窓の外の空に伸びをした腕が変な角度で入ってくる画面もかっこよかった。

タレントの男はインタビューで「地面に足をつけて生きるのが夢」とか言うんだけど、これって突っ込んでいいところなんですかね?
ムギ山

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