『TERRA』(ポルトガル/2018/60分)
監督:鈴木仁篤、ロサーナ・トレス
撮影:鈴木仁篤
録音:ロサーナ・トレス
編集:ロサーナ・トレス、鈴木仁篤
製作:ENTRE IMAGEM
共同製作:OPTEC
作品紹介
ポルトガル・アレンテージョ地方、土で覆われた2つの大きな窯。1人の男がここで炭を焼く。世界を形作る火、水、風、地、空の要素は大地のリズムを映し、呼吸し、寿ぐ。『丘陵地帯』『レイテ・クレームの味』に続く鈴木=トレス共同監督3作目、2018年リスボン国際ドキュメンタリー映画祭・国内映画部門にて最優秀賞を受賞。
鈴木仁篤監督とロサーナ・トレス監督が出会ったのはポルトガル南部のアレンテージョ地方で行われた映画のセミナーで、トレス監督が住むアレンテージョ地方をあちこち一緒に探訪する中でふたりの共同作業が始まった。
シンプルに「見つめていたいものを、撮った」作品のように思えるが、誰でもこのように撮れるものではない。トレス氏が録った音の存在感も大きい。
『TERRA』に触れた方はぜひ前作『丘陵地帯』、『レイテ・クレームの味』も味わっていただきたい。3本を通して見えてくるものがある。(ゆ)
2019年4月ポルトガルのフンダオで催されたENCONTROS CINEMATOGRÁFICOSでの『TERRA』上映の際に配布されたジャーナルに掲載された“鈴木仁篤&ロサーナ・トレスとのインタビュー『TERRA』をめぐって”からの抜粋
赤坂太輔:普通このような作業を撮影する映画ではクローズアップが多いですが、この映画では全く使われていませんし、それどころか固定のロングショットで作業が見えないくらい遠くから撮っている画面がたくさんあります。こうした撮り方をしようと思った理由を監督から説明してもらえますか?
鈴木仁篤:私たちは規則には従いません。私たちは早朝から夕暮れまで、同じ場所で一日中撮影を行うことがよくあります。その間、光はつねに変化しています。私にとって炭窯は非常に謎めいたものなので、その謎をありのままに尊重したかったのです。イメージの構図は自ずと立ち上がってきました。
ロサーナ・トレス:この映画は炭作りについてのドキュメンタリーではありません。このことが、映画のタイトルに「炭」を入れず、ただ「Terra」としたひとつの理由です。このタイトルはポルトガル語のこの単語が担う様々な意味と結びついています。「Terra」とは我々が歩く大地であり、作り変えられる土であり、我々が住む場所であり、我々の世界の名でもあります。そしてアレンテージョでは次のように歌われます。「私は大地に借りがある/大地は私に借りがある/大地は生をもって私に償う/私は死をもって大地に償う」
──続けて、最新作『TERRA』(2018)を制作したきっかけを教えてください。
『丘陵地帯』を作った後、同じ地域で別の映画が作ること出来たらと思っていたのですが、すぐには出来ずに『レイテ・クレームの味』を作りました。その後、ある日バーで炭焼きをやっている人に会い、その場所を訪ねると、池のそばの素敵なロケーションに炭窯が二つありました。とても惹かれたので、そこへ通って撮影を始めました。
──作業についての説明は一切ありませんが、観客は見ていくうちにおぼろげに男性が何をしているか把握できます。鈴木監督は炭焼きの流れをご存じでしたか?
沖縄にいるときに炭作りを見たことがありました。炭焼きの工程を説明したいとは思いませんでした。
──ラストカットが素晴らしいです。あの画は撮影の段階で最後に使えると思っておられましたか?
たとえよいものが撮れても、それを映画に使えるかどうかは分かりません。炭焼きと並行して色んなことを同時に撮っていたので、編集するまでは全く分からなかったです。
──『レイテ・クレームの味』を経て、『TERRA』で再び自然を撮られている印象も受けました。毎回違う試みを心がけておられるでしょうか。また、今後の構想があれば最後にお聞かせください。
特に意識していません。コロナ禍のあいだに撮影した素材はありますが、それが映画になるかどうかはまだ全く分かりません。
(2024年3月)
取材・文/吉野大地