エルビオ・ソトー監督作。
1973年のチリ、サンティアゴを舞台に、軍によるクーデターとそれに巻き込まれる人々の姿を描いたサスペンス。
1973年9月11日に発生したチリの軍事クーデターの模様を緊迫感に満ちた演出で描き出した作品。同事件を題材にした作品にはコスタ=ガヴラス監督の『ミッシング』がある。『ミッシング』では名優ジャック・レモンの熱演が光っていたが(カンヌ国際映画祭男優賞)、本作はもっとドキュメンタリーに近いタッチでクーデターの模様を描いており、特定の主人公らしき人物は存在しない(強いて言うなら外国人記者の男)。一応キャスト欄の最初にはフランスを代表する名優であるジャン=ルイ・トランティニャンの名があるが、実際は主人公ではないし出演時間もそれほど長くない。合法的に成立した社会主義政権を支持する人々が、アメリカに支持された軍部によってことごとく蹂躙されていく姿を映し出しており、より俯瞰的に、軍事クーデターの無慈悲な実態を目の当たりにさせられる。
資源の利権を巡るチリと米国間の経済的対立や、南米に成立した社会主義国家に対する民主主義国家・アメリカの危険視といった、チリ・米国間の国際関係の緊張が軍部によるクーデターを誘発したという恐怖の真実を明らかにする。銃撃戦によるアジェンデ大統領の死亡、そして無実の市民をも巻き込んだ粛清と処刑の嵐。人々の自由を奪う人道に反する行為。その片棒を、自由の国のアメリカが担いでいた事実に、世界に対し「自由」を強力に推し進めてきた超大国の欺瞞と欲望が浮き彫りにされていく。
特定の人物に感情移入できるようなつくりではないし、一本筋の通ったストーリーがあるわけではないので、悪く言うと散漫な印象。クーデター発生前と発生直後で、時間軸が過去と現在を頻繁に行ったり来たりするので取っつきにくさ・分かりにくさはあるものの、チリ全土を襲う「見える恐怖」とその裏で暗躍する超大国アメリカの「見えない恐怖」に圧倒される。
また、お手製のバリケードのみを頼りに抵抗を続ける人々に迫りくる戦車の映像や、スローモーションの多用など、映像・演出面でも印象的な場面が多くある。